千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

焼印の代わりに



時間の過ぎ方はあっという間だった。

セットリストであったであろう楽曲を歌い終えた名前さんたちが「ありがとうございました!」と挨拶をしてこの時間のライブが終了する。


プログラム的にこの後また次のセッティングなのか小休憩なのか、この挨拶を終えて辺り一帯も騒めき合う。
普段見ない衣装にいつもより遠くに感じる距離感に何とも言えない気持ちがざわざわしかける。



名前さんはライブが終わるなり、観に来ていた人達に囲まれていた。ワイワイと楽しそうに話していて俺たちは少しだけ離れた位置からそれを眺める。名前さんが目的できたから、雑談しながらたまに盗み見るけれど、とても楽しそうだ。クラスTシャツをきた女子たちとワイワイ話しかけられてたと思えば、話に入ってきた男とも話したり。ライブ中だって距離を感じたのにこれじゃ来ない方がよかったのかな、とマイナスな方へと思考は進む。


「場地はさ〜」


男の声が耳に入ってきて、名前さんを名字で呼ぶのがわかる。



名字で呼んでんだけど、距離近いんだよなぁ…。



ここは名前さんの学校だから、牽制も何もできずにもどかしさが募る。マイキーくんとかエマちゃんが傍でいろいろ話してるっぽいけど、そんなのは右から左だ。あわよくば、男の方だけ気付けばいいのにと思いながら、ガンを飛ばしてみるがそんなうまく行くわけなくって、モヤモヤは更に増えるだけ。



「名前、ちょっと来いよ」



話していた名前さんたちの輪に入ったのは同じバンドのあの金髪のオニイサン。こっちの方を軽く指差して、名前さんを呼び出している。呼ばれた名前さんもそれに頷いて彼らに軽く手を振ってこちらにやってくる。




「名前ー!」
「お待たせ〜」



名前さんがこちらに来て早々に動いたのはエマちゃんだった。名前さんに抱きついて、かっこよかった!と熱弁を繰り返す。名前さんは慣れっこな様子でそれを笑って受け流す。



「どーだった?」
「スゲェってな、相変わらず」
「ありがとう〜」



エマちゃんの言葉はハイハイ、って感じだったのにドラケンくんの言葉には少しだけ気恥ずかしそう。多分、エマちゃんとかマイキーくんがいう言葉と受け取り方が違うのだろう。決して俺の立場から嫌な意味ではなく。ちなみに一緒にやってきた金髪のオニイサンは場地さんと話していて、場地さんは名前さんが来るなりツーンって感じ、なんつーかなるべく接触しないようにしているっぽい。



「千冬、どーだった?」
「凄かった、です」



せっかく名前さんと話せたのに俺はありきたりな言葉しか出てこなくて情けない。それでも名前さんは嬉しそうにはにかんでくれて、それだけでさっきまで抱えてたモヤモヤが少しだけだけどスゥッと消えていくのがわかった。



「名前、なんで水色なの?」
「んー?」
「エクステ!」



エマちゃんの言葉を聞いて、そうだったと思い出す。今日の名前さんはいつも結ぶ時はポニーテールにしているのを知っているが、いつもと違うところが一つあった。エマちゃんが力強く呟いたエクステ、それである。名前さんの綺麗な黒髪にメッシュのように流れる水色の毛束。一瞬地毛を染めたのかとも思ったけど、それはエクステだったらしい。ポニーテールに混ざるそれは黒とはかけ離れた色のため、とてもわかりやすく発色している。




「名前、好きな色赤でしょ」



エマちゃんが更に畳み掛ける言葉に名前さんはさすがに少しだけ困ったように笑って誤魔化す。



「水色も好きだよ」
「そうだったの?」
「うん」
「いーじゃん、趣向を変えてみて新鮮だったでしょ」



結局、金髪のオニイサンの一言で確かに新鮮だったという流れで落ち着く。と、言うよりは次から次へと興味が変わって話題も移り変わってしまったのだ。あれから、ここでの催しが一旦終了らしく、気づけば人も閑散としている。それを見て、移動しようかという一言によりその場を離れることにした。












「あれ、みんなは?」
「マイキーくんがあれ食べたいこれ食べたいで、先行っちゃいました」



学校内を案内しながら歩いていた俺たち。途中、名前さんがトイレに立ち寄ると言って待っていたのだけれど、その短時間の間にマイキーくんたちだけいなくなってしまった。名前さんにはそう言ったけど、多分俺らに気を遣ってくれてる気がする。名前さんは辺りを見渡して誰もいないことを不思議に思いながらも、そっかと深く疑問に思うわけでもなければ納得した様子。



「じゃあ、二人で行こっか」



普段と違う格好に、俺にとって慣れない場所でいつだって一緒にいたいと思う名前さんがやっと俺だけを見てくれるこの時間に心の中でひっそりとガッツポーズをとってしまったのは言うまでもない。



「バンド名、なんでしたっけ」
「マーヴェリック?」
「それ、どんな意味があるんですか?」
「焼印の押されていない仔牛」
「エッ」


ここは学校、しかも名前さんの。ガヤガヤと賑やかな校内で誰がどう見てるかわからない、という勝手な自意識を働かせながら名前さんに問いかけてみると、予想外の返しに言葉が詰まる。



「そっから、はぐれものとか異端者って意味になるかな」



一言じゃ理解しきれなくて思わず名前の方をガン見してしまった。けど、すぐに名前さんの補足を聞いて、なるほどと納得させられる。



「名前さん、水色も好きなんすね」



名前さんの方を見た時に、改めて視界に入った水色の次に浮かんだのはエマちゃんとのやりとりだった。名前さんの好きな色、知らなかったなって思ってまた一つ知れたことだったから、ただ何となく口に下だけのこと。俺としては深い意味は何一つなかったんだけど。



「千冬が好きって言ったから」



さっきまで普通に話していたはずなのに、さっきとは違ってボソボソと呟く名前さん。だけど俺がこの言葉を聞き逃さなかったし、聞き間違えでもないはず。その証拠に名前さんの頬がみるみるうちに赤みを帯びているからだ。



「千冬が観に来るって言ってくれたから、衣装決める時に千冬の好きなものいれたいなって思って…」



気づけば耳まで真っ赤になってしまった。何それ、俺の好きなものって考えて俺の好きな髪色にしたの?思い返せば、前に名前さんが俺に好きな色を聞いてきたのってもしかしてそれが理由?全然気づかなかったし、照れてる名前さん可愛すぎなんだけど。



「エマが…言ったように好きな色、本当は赤なの」
「覚えてオキマス」



マジさぁ…名前さんズルくね?俺のこと意識して考えてくれててさ。誰も気づかないようなことだろうけど、俺と名前さんだけが知ってればそれだけで十分だ。さっきまで胸の中にあったモヤモヤはもう嘘みたいに無くなっている。



あー、ここが学校じゃなかったら今すぐ抱きしめたかったらな。それだけが悔しい。


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