千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

離れた猫の群れ




視聴覚室に入って中を見渡せば、みんなは左隅の方に固まって座っていた。交代で演奏をやっていたのかわからないけれど、ステージ代わりとなる前方のところでは楽器の設置とチューニングをしているようだった。


「人、多いっすね」
「あぁ、」


場地さんの横に座って辺りを見渡す。さっきも見て思ったけれど、文化祭らしくクラスTシャツを着ている人や催しのための衣装であろう人など異彩を放っていた。その光景だけで文化祭って感じがより肌で感じられる。



みんな、名前さんたち見に来てんのか…。




この人たちは、何回名前さんのライブを歌を見て聞いて感じたことがあるんだろうか。これから俺が見るのは俺がまだ知らない世界。



ボンヤリとぐるぐる思考を巡らせていれば突然現実に引き戻された。その理由は各々雑談を楽しんでいたはずなのに、突然室内の雰囲気が一変したから。


そこから一気に俺はこの場に飲み込まれる。


気づけば室内の電気は落とされて、唯一照らされているのは前方ステージとなるところだけ。一掻きしたギターの音が耳から身体の芯に訴えかけるように入り込む。それをキッカケにドラムを叩く音が響き渡り、まるで身体が音で振動しているように錯覚させられる。



「Live Start」







アンプからガンガンに聞こえるギターやベースの音が完全にこの場を支配したはずだった。入り口から遅れて入ってきた人が彼らの前に立ってマイクを構えた時、空気の流れが再び変わる。


低めの艶っぽい名前さんの声が響いた。




語彙力があれば色々と表現できただろう。

だけど今の俺にはそんなことはできない。

それでも言うなれば、圧倒されたし飲み込まれた、けどそれ以上にかっこいいと思った。


高音のブレない声、かと思えばハスキーな艶のある声、色気を感じさせるその声に身体の奥がざわめく。名前さんは曲に合わせて身体を揺らしリズムを取る。ひらりと手を翻し伏せ目がちな名前さんの目線が観客たちを流し見て、俺の視線とぶつかった瞬間に背筋がゾクッとして身体に電撃が走ったような感覚が俺を襲う。



気づけば一曲が終わり、ギターやドラムの音が余韻を響かせていて、観にきていた人たちが大きく手を打つ音が耳に入ってきた。



「みなさんこんにちはー!」



名前さんが俺たち客席サイドを見渡しながら手を振って挨拶をする。多分、名前さんの友達がいたみたいで、目が合うと少しだけ砕けた名前さんらしい笑みを浮かべて動きをつけて反応していた。



「あたしたち、マーヴェリックです!今日は文化祭2日目!みんな楽しんでますか〜?!」



マイクを客席に向けてみれば、ここの生徒である人たちがノリノリで手を上げて「「「はーーーい!!!」」」と返す。それがまた圧倒的なパワーがあって名前さんも思わず笑うしかない様子だ。



「めちゃくちゃ元気!外からのお客さんたちも来てくれてありがとうございます!初めましての方、2度目まして、いつもの方々、いろんな方が来てくださっているので簡単にご挨拶!」



名前さんはマイクを片手に語りながら右に歩いたり左に歩いたり、たまにバンドのメンバーと目配せすれば、控えめながらも音を奏でたり。MC慣れしてるなってのが率直な印象だ。



「いいかな、」
「やろやろ」



右に座ってる女子生徒たちがコソコソと何かを打ち合わせ。クスクス笑いながらやりとりを止めない様子に俺は名前さん喋ってんのになんだよ…。正直言って黙っててほしい。と思いつつ言葉に出せないからそんな気持ちを込めて視線を飛ばしていれば、この二人は自分達の手を口元に添え始める。そして、



「「名前ー!」」



MC中の名前さんに向かって大声で名前を呼んだ。もうギョッとしてしまった。突然のことに。名前さんも途中でMCを止めてしまい、一瞬キョトン顔。ただ呼んでくれた彼女たちを見るなり結構仲がいいのか、一気に表情を緩ませて軽く手を振っている。

これをきっかけにだった、ほかの人たちも多分メンバーの名前とかも含めてワイワイやりたい放題のガヤが飛び交う。




「いいな、あれ」
「マイキー?」
「俺たちもやろ!!!」
「はぁ?」



マイキーくんはすごく楽しそうな表情を浮かべて賛同を求めるも場地さんの嫌そうな表情で一刀両断。俺はぜってぇやらねェと顔にも書いてあるし、雰囲気だってめちゃくちゃに出しまくっていた。マイキーくんは懲りずに場地さんの肩を揺さぶるけれど、場地さんの意思もなかなかに固く口も閉ざされていて動じない。体はめちゃくちゃ揺さぶられてるけど。



そして気づけば次の曲が始まってしまい、また観客サイドはライブへと集中する。アップテンポで引き込むパフォーマンスが凄くて魅了されて、気づけばすぐに次の曲が終わってしまう。そして拍手が鳴り響く室内の中、それは突然起きた。


「「名前ー!」」


さっきみたいに名前さんの名前を大声で呼ぶ声。ただ違うのは聞こえてきた方向と声だ。さっきは女の声だったけど、今の声には男の人の声も含まれているし、なんなら耳馴染みのあるもの。そう、今の声の主は佐野兄妹、つまりはマイキーくんとエマちゃんのもの。結局、やっちまったな…なんて思っていれば、名前さんとバチッと目が合う。





「名前〜!!!」
「っ、」




条件反射だった、気づけば声を押し殺して思いっきり上半身をぶっ潰してしまう、腕に顔を埋めて。全身の体温が上昇していくのがわかったし、何より自分の顔が熱い。横でエマちゃんがもう身を乗り出す勢いで手を振っているが視界の端々に入ってくるし、また周りがガヤガヤし始めてるけれどそれはもうそれどころじゃない。




「名前もよくやんなぁ」
「すっげぇ楽しそうじゃん!な!って、ケンちん、何で場地たちぶっつぶれてんの?」
「ほっとけ〜、コイツら別の意味でぶっつぶれてるからよ」




ドラケンくんの楽しそうな声もマイキーくんの不思議そうな声もするけど、俺はうるさいぐらいの心臓の音が自分の感覚のほとんどを占めていた。チラリと見上げてみれば、マイキーくんの言葉の通り場地さんも頭抱えて下向いている。


「流れ弾食らったわ…」
「なんだよそれ!」
「うっせぇな!」


あ〜…って若干声が漏れてるんすけど、大丈夫かな…、って思ってたけど大丈夫そう。マイキーくんの言葉にカッて反応して顔上げてたし、表情は苦虫を噛み潰したみたいな顔してるけど。



「場地は名前のファンサ受けちゃったんだよねー」
「俺は流れ弾だッ」
「いーじゃんいーじゃん!」
「よくねェわ…ッ」
「おめェらほどほどにしろ〜」



はぁ…、名前さん、ズリィよ…。

うるさい心臓を無理やり鎮めて、なんとか平常心を取り戻す。そして再びステージに立つ名前さんに視線を戻せば、名前さんはいたずらっ子のように舌をぺろっと出して笑っていた。

びっくりした、まさか猫の手使ってにゃんにゃんって招くとか可愛すぎるから…!!!


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