千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

群れから離れた者




名前さんとはしばらくちゃんと会えていない。
文化祭の準備で追い込みだと言ってきた。会えていないだけで、メールはしてるし場地さんからも話は聞いている。


ライブの練習とか催しの備品準備とか衣装だったりとかいろいろ大変なようだ。


会えない期間は正直寂しいというかもどかしさはあった。






青空広がる最高の晴天。


「お前ら準備はいいか…!」


私服姿のマイキーくんは、集会の時のように真剣な眼差しを俺たちに向けて立ちはだかる。



「ひよってる奴いるか?いねェよなぁ!」



マイキーくんは最高の笑みを浮かべて右手を天に掲げる。



「よっしゃぁあ!文化祭だぁあああ!!!」
「いえーい!!!!」



マイキーくんとエマちゃんの声が響き渡った。それはもう楽しそうな声で、この名前さんの高校の校門前で、だ。


「マイキー、頼むから静かにしてくれ…」
「千冬ぅ、俺ら他人のフリしていくぞ…」


ドラケンくんは頭を抱えているし、場地さんも見て見ぬフリだ。正直俺でさえ恥ずかしい。だって、文化祭に来ているいろんな人たちの注目を集めているからだ。名前さんが見たら絶対嫌がりそうだなぁ…。



場地さんからもらった文化祭のチケットを受付で渡して代わりに渡されたパンフレット。ペラペラとめくってみれば、各学年クラスの催し一覧と部活ごとの催し、ステージイベントスケジュールなどが載っていた。



「名前のライブ何時からだっけ、」
「あーまだ30分以上は時間もあるはず」


パンフレットを開きながら、場地さんは携帯の時間を確認して逆算する。俺も名前さんからメールで今日の時間を聞いていたから、場地さんの言葉の通り、確かにまだ時間があることも知っていた。


「どっか行く?」
「場所確認しながら回ろうぜ」
「名前にライブ前に会えたらいいな!」


と、いうことで俺たちはライブを行うところを目指しながら文化祭巡りをすることに。




まず率直な感想は、出店とか人とか中学とは大違いだった。

生徒たちの体格差もそうだし、やってることのレベルが違う。中学に入ったばかりの頃に想像していた文化祭が高校にはあって、すごい楽しそうだ。こういう時、うまい言葉が出てこない自分の語彙力のなさを実感するんだけど…。


クラスTシャツだろうなって服を着ている人や明らかに衣装ですって格好だったり、被り物被ってる人もいたり。ホント、祭りって感じの雰囲気があちこちであって、めちゃくちゃ楽しそうだ。通るたびに、遊びに来て!とか買いませんか?なんて声かけられ、目を引く展示も多くてマイキーくんもエマちゃんも常にホイホイされてる。それをまたドラケンくんが困ったように引っ張ったり、場地さんが痺れ切らして声荒げたり。


目的地は視聴覚室。小ホールのようになっているところらしく、名前さんたちのライブはここでやるらしい。場所は校門から離れたところで少し歩かないとないらしく、パンフレットを見ながら教室の表示と見比べて歩き続ける。多分、そろそろ着くんじゃないかな、って思った頃、エマちゃんが突然声を上げた。


「アレ、名前じゃない?!」


エマちゃんが差した指の方向にいたのは遠目ながらも名前さんっぽい人。多分、そう。遠目だし、格好だって普段と全然違う。ちょっとパンクっぽい白地のシャツに黒のネクタイ、チェックのアシンメトリーなミニスカート。すらっと出した足にちょっとだけモヤっとする。けど、それ以外に目を引いたのは名前さんの髪型だった。ポニーテールは何度も見たことがあるけれど、いつもと違う点がある。


「名前!」


エマちゃんが大声で名前さんの名前を呼ぶが聞こえていないのか反応はない。そのまま角を曲がって姿が見えなくなってしまった。その後を追いかけるようにエマちゃんが走り出したけれど、目の前に誰かが立ちはばかって、その動きもすぐに強制静止させられる。



「ちょっと!危ないんだけど!」
「危なくてもここでストップ、この先は関係者のみな」



突然のことに怒りを露わにするエマちゃんだけど、そらを気にすることなく笑って止めに入ったのは名前さんのバンドメンバーの金髪の人。ニッコリ笑ってこの先は行かせないと言う、しかし後ろには別に立ち入り禁止のテープも注意書きも何もない。



「名前に会いに来たんだけど」
「知ってるよ、聞いてるからな〜。けど、ダーメ」


マイキーくんもそれに何かを思ったらしくて口を開くけど、それも静止させられた。おかげでこっちの空気が一瞬で悪くなるというのに、微動だにしないのはこの人の元々の性格なのかなんなのか。



「ライブ前のアイツはメンバー以外基本接触禁止。今、準備中だから話すなら終わった後。見たいならこっそりバレないように、それまでしか許せない」



ここは名前さんの高校、名前さんのライブを見に来た俺たちはこんなところで騒ぎを起こすようなことはできない。だから、思うことはいろいろあるけれど、その言葉に従うしかないんだ。


「おーい、そろそろ集合」


すると名前さんの曲がった角からひょっこりと顔を出したのは別の人。初めて見るはずなのに、なんとなく見覚えがあった。どこで見たかなんて覚えてないけど。声かけられて、金髪のオニイサンは「今行く〜」と答えて行ってしまった。あんな風に言われて、ノコノコ行ける性格でもないし、正直後味は良くない。結局俺たちは互いに顔を見合わせて視聴覚室に入ることにした。



「あ、俺トイレ行ってから行きます」
「場所適当に取っとくな」
「はい、あざっす!」



場地さんたちに場所取りをお願いして、俺はトイレを探す。方向的にさっき名前さんたちが行った方向にあるようで、俺は少し気が引けながらもそっちに足を向けて動く。




「今日は文化祭だけど、みんなあたしたちを見にきてることに変わりはない」



突き当たりについて、名前さんが行った方と逆側にトイレはある。なのでそのまま逆方向に曲がってさっさと戻ろうと思っていたはずなのに、曲がってすぐ聞こえてくる名前さんの声に思わず足を止めてしまった。



「マーヴェリックはマーヴェリックらしく」



さっき、止められていたのに。そう思いつつも俺はなるべく自分の気配を出さないように視線を移して俺は息を呑んだ。




廊下で円陣を組む集団。その集団に名前はいた。全員が右手を握り拳状にして出していて、拳を合わせ合っている。



「自分たちらしく、いつものあたしたちでいくよ」



ここから名前さんの顔は見えない、けれど名前さんの声を聞けばわかる。名前さんの集中力と真剣さ。名前さんだけじゃない、周りの人たちの空気も俺の入る隙なんて全くなかったこと。



名前さんがどれだけの思いで取り組んでいるのか、ここがどれだけ大切にしている場所なのかが見れば一目瞭然だった。だからさっき止められたのも察しがつく、俺は静かに気付かれないようにこの場を後にした。



あぁ、そっか。さっきの見覚えある人は名前さんがこの前持ってたプリの人じゃん…。


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