千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

可愛い君の照れ隠し





季節は移り変わり、カラーシャツを下に仕込んだ状態でワイシャツを着ていた名前さんもカーディガンを着るようになっていた。グレーのカーディガンは緩々、ブカブカ。サイズは大きめのもの。俺だって制服の時にはパーカー着てるんだけど。


「はい、ちゅーもく!」


不定期にこの集会へ名前さんが顔を出すのも珍しく無くなってきた気がする。俺が認知する前は全然だったのに、今やこれも日常の一つ。それは名前さん自身も同じようで、この野郎だらけの空間で平気な顔してそこそこな声の大きさを上げたもんだから、自然とみんなは名前さんへと視線を移す。


「来月のこの日曜日、空いてる人」
「えー、何人?」
「何人でも?」


エマちゃんが尋ねてみるが、名前さんも疑問形の語尾で首を傾げながら返す。「お前、なんか聞いてるか?」って八戒に聞かれたけど俺も心当たりはない。場地さんもすっごい不可思議そうな顔してるし、なんなら眉間の皺もすごい。


「チケット、欲しい人渡すから」
「名前、ライブやんの?!」
「ウチ、行きたい!」


チケットという単語を出した瞬間、反応したのはマイキーくんとエマちゃんだった。それはもう早かった、片手上げて「ハイハイ!」っていうマイキーくんとめちゃくちゃ食い入るエマちゃん。名前さんと言えば、二人を慣れた様子で宥めながら、ポチポチ携帯をいじっている。


「正確には文化祭ね」
「文化祭!」
「文化祭でライブするから、チケット代もかかんないし、文化祭自体が部外者はチケットなきゃ入れないからチケット抑えとかなきゃいけなくて」


確かに。時期的に文化祭シーズンだ。名前さんのところは来月なのか、って悠長なこと思ってたけど、なにそれ。俺も初耳なんだけど…?


「エマとマイキーとドラケンも来るよね」
「確定事項かよ」
「確定事項だよ」


やったー!なんて喜ぶ二人とそばにいたドラケンくんも笑ってるし、名前さんも当たり前のように返していて俺の方なんてちっとも見てくんない。俺、俺はどうすれば…、俺も行きたい。


「三ツ谷たちはー?」
「あー予定確認すっから保留」
「ルナマナはチケットいらないけど、来るなら教えてね」
「おー」


完全に俺のことはスルー。三ツ谷くんにも確認取ってるのに、そろそろ泣きたい。なんかしんねぇけど、みんな名前さんとのこと知ってたし隠す必要もないけど、ここは集会所。周りには先輩たちしかいねぇから、後輩として出しゃばるのは気が引ける。


「場地たちは?」
「は?」
「圭介は強制参加」
「ハァ?!」


誰かが聞いた。場地たち、というのは多分俺も含まれてるのかな。話半分ぐらいしか聞いてなかった様子の場地さんが突然名前を言われて、は?って反応する。そしたら、名前さんがそれこそサラリと呟くから場地さんが横で大声を上げた。デカい反応だったから、名前さんは携帯を閉じると場地さんに視線を向けて無表情で口を開く。


「人数は多くないとつまんないし身内がいた方が盛り上がるでしょ、だから強制」
「チッ、だるっ…」


場地さん、本気でめんどくさそう。あー、と声を漏らして遠くを見始めちゃった。場地さんも行くのか、行けるなんて羨ましいっすよ。そう心の中で呟いたって誰にもこの感情は届かない。


「それに、千冬も来るもんね」



ここでやっと名前さんと目があったし、ついさっきまでとは打って変わってニッと笑った表情にドキッとする。ずっと目を合わせたいと思ってたのに、いざこうやって合ったら合ったで未だに自分の方が揺さぶられてさまうし、それをなんとか表に出さないように頑張って頑張ってできたのが「はいっ」って頷くことだけだった。















「文化祭でライブやるんすね」
「うん、スケジュール取れたからね」


あれから一緒に戻ってきた俺たちは団地の下のところでバイクを停めて、コンクリートの段差にしゃがんで二人で駄弁ってる。名前さんは心なしか楽しそう。


「有志発表じゃないから、ちゃんと移動しなくていい場所も確保されてて機材の運搬ないし、タイムスケジュールだけ抑えておけば大丈夫じゃないかな」
「そうなんすね」


正直、高校の文化祭の事情ってあんまよくわかんないんすけど。適当に合わせて相槌を打つ。有志発表だったら多分体育館でやってたのかな、とか早い時間にやってたのかなと思ったりして。



「千冬の好きな色教えて」
「あー水色かな」


突然の脈略もない質問。名前さんは水色か、ありがとうなんて返してこの会話はこれでおしまい。まあ、こういう意味のない会話する時だってあるからな。だからあんまり気には留めてないし、むふふと楽しそうに笑う名前さんが見れるだけで俺も嬉しい。


「千冬に見られるの恥ずかしいけど、楽しみにしてて」
「名前さんも恥ずかしいとか思うんすね」
「あたしをなんだと思ってるの…?」
「嘘っすよ!名前さん照れ屋だから」



少しだけ気恥ずかしそうな名前さん。俺のこと意識しそうなってるのは可愛らしい。だから、ちょっとだけ意地悪したくてからかって見たら、案の定名前さんはムッとしてしまったから、俺はすぐに訂正を入れればピタッと動きを止めてしまう。あー赤いかな?って思ってた顔が一気に真っ赤。



「…ちふゆぅ」


赤面顔でムッとした名前さんが照れ隠しをするかのように俺に飛びついてきて髪の毛をわしゃわしゃしてきた。突然のことに俺も大勢崩して俺の上に名前さんが乗っかる感じ。


「ちょっ、髪の毛ボサボサ…!なるからっ!」


まるで俺はわしゃわしゃ撫でられてる犬扱いだ。ひとしきり、わしゃわしゃとされて名前さんの手が止まった時、さすがの俺も息をするのを忘れたかのように息を呑んだ。体制を崩して手を突きながら座り込む俺にやや乗っかる感じでいるせいで見下ろすようになってた名前さんと視線が交わる。



「名前さんは、かわいいっすよ」
「ちふ、」
「めちゃくちゃ照れ屋さん」
「うるさい…」 
「褒められ慣れてなさすぎ」
「千冬だからだもん…」



こうなったら俺の勝ち。むぅ…と唸りながら、名前さんはそのまま俺の胸にダイブする。さっきのちふゆぅ〜が場地さんと似てたなぁなんて思いながら、かわいい名前さんを抱きしめた。


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