千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

そう自分に言い聞かせる






「千冬、ペヤングできたぞ」
「あざっす!」


場地さんの家に来た俺は場地さんの部屋で待っていた。少しして湯切りを終えたペヤングを持って戻ってくる場地さん。今日は場地さんに呼ばれて家に来たわけだけど、元は同じ団地。見慣れた部屋の間取りに並ぶ家具が場地家であることを実感させてくれた。




「場地さん」
「あ?」


いつものように半分こするペヤング。今は場地さんの番で、場地さんはペヤングを今まさに食うってタイミングで俺は声をかけたもんだから、場地さんは返事をしながら箸で撮ったペヤングを口に突っ込んだ。



「名前さん、ってバイトとかしてるんですか?」
「姉貴ぃ?んだよ、急に」
「あ、いや…、場地さん家って何回も来てるっすけど、会ったことないな〜って思って」



突然のこんな質問、場地さんの言う通りである。急にどうしたって質問だよな、って俺も思う。だから、それとなく無難な疑問を述べれば、場地さんはすぐに「あぁ」と納得してくれたので、俺はそっと胸を撫で下ろす。




「あー今日はどうだったっけなぁ」




口に含んだペヤングをモグモグと咀嚼しながら、いつものように食べかけのペヤングが俺の元に差し出される。俺は何食わぬ顔で受け取りながら同じ部屋でこんなにも近くにいるはずの場地さんの言葉をこれでもかと言うぐらい研ぎ澄まして耳を傾けた。



「ただいまー」



ドキッとした。身体が一瞬強張ったけど、場地さんは声のした扉の方を見ているから、俺の些細な変化には気づいてないはず。だって耳に入ってきたのは場地さんの声じゃなかったから。

パタパタと聞こえる足音、平常心を繕ってペヤングを口に頬張れば場地さんの部屋の入り口からひょっこりと現れた名前さん。見慣れない制服を着ていて、ワイシャツのボタンも二つ外してある。ゆるく結ばれたネクタイがあることにより、首筋から肌けた胸元は上手く見えないようになってはいるけど、じんわりと浮かんでいる汗が名前さんを色っぽく見せる。



「あ、千冬いらっしゃい!」
「お邪魔してます」
「ただいま、圭介」
「おう」



俺のことに気づいた名前さんは、ニッと笑顔で声をかけてくれて、またドキッとしてしまう。その感情を押し殺して、簡単に挨拶をするけど、正直平常心を見せられているかわかんねぇ。名前さんは俺に見せた繕った笑顔とはまた別の、これが普段の家での素なんだろうなって感じで場地さんにも声をかけていた。



「またペヤング?千冬も飽きない?」
「ペヤングはうめぇだろうが」
「美味しくても同じのばっかりは飽きるでしょ」




それはもう当たり前のように名前さんは持っていたスクールバックを床に置いて、俺の前に座った。ちなみに場地さんはベッドの上で寛いでるため、俺は場地さんからは見下ろされていて、同じ床に座っている名前さんと同じ目線の高さにいることになる。



「ちーふゆ」



場地さんがまた一口食べたペヤングが再び俺のところに戻ってきたとき、名前さんに名前を呼ばれて視線の先を切り替える。と、同時に何かが俺の口元に触れた。



「ついてるよ、ソース」



触れたのは名前さんの指だった。俺の口元にペヤングのソースがついていたらしく、それをそっと指で拭ってくれる。ニッと笑ったあの表情で、こういうところが上の子がやりそう、って感じたのと笑い方が場地さんに似てるなって思った。



「あ、…す、んません」
「人の見てるとさ、美味しそうに見えるよね」



そう言いながら名前さんが見つめるのは俺の手元にあるペヤング。



「一口ちょーだい」
「え、」
「けーすけ、一口もらうよ」
「あぁ」



ニッコリと少しだけいたずらっ子のような笑みを浮かべて名前さんに聞かれたけど、俺は言われた言葉に対して即答できなかった。名前さんは深く気にすることなく、場地さんの方を見て尋ねてみれば、場地さんは読んでいた雑誌から少しだけ視線を外して名前さんと俺の顔をチラッと見て短く返事をするとその視線はまた雑誌に戻ってしまった。



「ん、ありがとう」



名前さんは俺の手にあった箸だけを手に取って、ペヤングの麺を数本捉えるとそのまま口の中へ運んだ。うんうんと軽く頷きながら咀嚼して、箸はそのまま俺の元にあるペヤングへとリターン。


…したかと思えば、名前さんに次はペヤングごと取られてしまった。



「はい、圭介」
「ん」


また一口食べるのかと思えば、そのペヤングは場地さんの元に。場地さんも当たり前のように受け取ると、それを確認した名前さんはそのまま立ち上がって「あたしも何か食べよーっと」と呟きながら部屋を出て行ってしまった。



「千冬?どうした」
「…え、あ、何もないっすよ!って、場地さん〜!俺まだ食ってないっス!!!」
「あ?そだったか?」



名前さんがいなくなった後、俺は完全にフリーズしてしまい、場地さんの声で我に帰れば場地さんがペヤングを食べていて、ここで俺は自分が食べずにいたことを思い出す。場地さんは雑誌をずっと見てたからそんなことを知らないのも当たり前な訳で、ペヤングをモグモグと何食わぬ顔で食べていた。


ああもう俺ばっかり意識しててバカみてぇじゃん…かっこわるっ…。


そう思っても気になって仕方ないのは憧れの人の姉だからだと思いたい。





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