千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

聖なる日の前の話




マジありえん。

はぁ、誰がこれでハイ、わかりましたって納得すんだよ。


名前さんと付き合って初めてのクリスマス。俺はどうやって過ごそうかな、どこ行こうとか、プレゼントは、っていろいろ考えてたのに。


数日前の誕生日、名前さんは日付変わる前にクッソ寒い中、団地の外で俺のことを待ってくれていた。それがすっごい嬉しくて、でもめちゃくちゃびっくりして、何事かと思ったら俺のためで。あぁ、本当にこの人のこういうところが好きだなって思ったのに。


クリスマスもきっと一緒だろうな、って思ってて、ギリギリに確認した俺も悪いかもしれないけどさ。



「ごめん、その日バンドの方の予定があって」



クリスマスだよ、クリスマス。

名前さん、クリスマスにバンド?

場地さんたちと家族でだったら納得。
バイトなら百歩譲って我慢…して迎えに行くつもりだった。



だけど、名前さんはバンドと言った。珍しくいつものような余裕さなんて見えなくて、眉も下がって困ったように、少しだけ申し訳なさそうな表情で。

謝ってくれたけど、それで納得するほど俺はできた人間じゃない。


「…そっすか」
「ちふゆっ…!」


名前さんが俺のこと呼び止めたのは知ってたけど、シカトした。それから名前さんとは会ってない。メールでもごめん、と来てたけどスルーした。


それが、数日前の出来事。








「あ〜終わった。やっと冬休みだな」
「…」
「千冬ぅ〜、聞いてんのか?」
「…え、あ、はい、すんませんっ」


終業式を終えて、明日から冬休み。学校を後にして帰る俺と場地さん。楽しい楽しい冬休み、しかも今日はクリスマスイブ。クリスマス当日は日曜日だったから、名前さんと一日中一緒にいれるって思ったのに。それなのに、全部それが台無しになって俺が突き放した。自分がやったことだけど、思い出すのはあの時の名前さんの声と最後に見た表情。だから、場地さんに声をかけられても気付けなくて完全に上の空だった。



「千冬、どうした」
「…いや、えっと」
「どーせ、姉貴のことだろ」
「ちが、…っはい、そうっすね…」



思わず否定しようかとも思ったけど、場地さんに隠し事をしちゃいけないし、それ以前に筒抜けなはず。俺は素直に白状することにした。



「まあ、普通に考えて面白くねぇよな」



バンドってことはメンバーと一緒にいるわけで他の男といるってことだしよ、と話す場地さん。全くもってその通り。そうなんだ、俺が感じたことはそれだった。



「しかも、ライブハウス行くってたし他のバンドの野郎もいるだろうな」



場地さん、それは初耳っす。



「ライブハウスってことはライブかぁ?つーことは今日も練習だろ〜、姉貴もアホだな」



そう言えるの場地さんぐらいっすよ。



「んじゃ、千冬。今日俺に付き合え」




そんなやりとりをしたのは昼間の話。学校を後にして家に帰ってからグダグダ過ごして夕方に再度集合。外気に当てられただけで冬の空気の冷たさに思わず一回身震い。さむっ…って自然と言葉も漏れていて、今日はイブで明日はクリスマスなのにな…って思ったら段々悲しくなってきた。


場地さんと合流して、ツーリングにでも行くのかと思ったけど、どうやら違うらしい。歩いてくぞ〜なんて言われて、俺はただついていくだけ。



「場地さん、ここ…」
「新しくできたんだと」



場地さんに連れられてやってきたのは地下に繋がる階段。階段手前には所謂お祝いの花輪?とか並べられていて、明らかに開業したばっかですって感じだった。英語でなんか書いてあるけど、正直わからなくて、唯一分かったのはLIVE HOUSEって文字だった。


「って、場地さん…!」
「んだよ、早く入んぞ」


状況が飲み込めなくてボケっと立ち竦んでいたら、場地さんは当たり前のようにその階段を降り始める。びっくりしすぎて名前を呼べば、場地さんはめんどくさそうに早くしろ〜なんて言ってきて。俺はモヤモヤしながらも後ろをついていく。



一段ずつ降りていくたびに薄暗くなる景色。細い階段を通って、外とは違う空気が流れ始める。地下について扉を潜った先に広がるスタンディングスペースとステージ。疎に人がいて何やら準備をしている様子だった。忙しなく動く人たち、完全に場違いなのは明確でそれだけで謎の緊張感が体を巡り、俺は思わず息を呑む。


「ちわ」
「…どこのメンバー?」
「場地」
「あーちょい待って」



それなのに場地さんは気にすることなく、近くを通った男に声かけて。どこのメンバーか聞かれて自分の名前を名乗ってスゲェなって思った。場地さん、こういうところも慣れてんのか、明らかに俺らより歳上なのに動じねぇ…。



「あれ、けーすけとちふゆ」
「よぉっす」
「名前なら今裏にいんぞ」
「いや…」


そしたら名前さんのバンドメンバーの人が来た。あのメッシュの方。この人、基本表情変わんねーで淡々としてるんだよな。俺と場地さんがここにいることも驚かず、当たり前のように名前さんの名前出してさ。呼ぶか?と言いたげな表情で尋ねてきたけど場地さんは俺の方をチラッと見るだけ。



「ここさ、俺らがお世話になった人が始めたライブハウスでさ。そのお祝いライブ、今日なんだよ」


ガヤガヤとするハウス内。あっちだのこっちだの、ちげえ!とか、これどうよ、なんてまるで学校の文化祭みたいなやり取り。よく聞けばたまに笑い声もあったりして、楽しそうだなって思った。



「クリスマスってわかってたし、断る選択も聞いたんだけどさ、一応。だけど、名前が参加するって決めたんだよ」
「…」
「名前、ちふゆに嫌われたかも〜って泣いてた」
「っそれは」




口を開いてもすぐに言葉が詰まって何も出ない。この人の言う通りだったら、名前さん泣かしたとか俺最低じゃん。確かに話の途中でいなくなったしメールはシカトしたしあれから会ってねぇし…すっごい子供じみたことやってんじゃん…。カッとなって理由聞かねえで。クリスマス一緒にいられないって一瞬の気持ちでキレて、バカみてぇ。今更謝ったってどうすんだって話なんだけど。



「けーすけ、と…ちふゆ…?」


















今俺の横に場地さんたちはいない。

通ってきたばっかりだった階段をまた戻って外に出て、人通りの少ない裏側へ。

外に出て一気に冷たい空気が肌を刺すと言うのに、俺はこの現状の方が心に刺さる。



「千冬、ここまできてどうしたの」


数日ぶりの名前さんの声。数日前に自分のしたことによって、どんな顔して話せばいいかわからず顔は見れない。


「場地さんに連れてきてもらいました」


素直に事の流れを簡潔的に伝えれば、そっかと納得した言葉。聞こえてくる声はいつもの通りで心のどこかで安堵する。



「名前さん、すんません。俺、ちゃんと話聞かずに…」
「ううん、もっと早めに話せば良かっただけだから」
「でも、俺名前さん泣かせるほどのことして…」
「…あたしが…?」



思わず顔を上げたし、お互い、「え?」って顔で見合わせてしまった。




「〜〜〜〜やられたっっっっ!!!」



騙されたと気づいたのはすぐだった。寒い外のはずなのに顔が熱い。くっそぅ…してやられた…。あの人はそんなことしねぇって思ってたのに、どうやらこういう嘘も言うらしい。まんまと騙されたことがすっげぇ恥ずかしくて、着ていた服に顔を埋める。声こそ出てないけれど、横で名前さんが笑ってるのはわかってる。だって横に寄り添っている名前さんの体が揺れてるから。


「…笑わないでくださいよ…」
「笑ってないけど、すごい悩んでくれてたのは嬉しいなって思って」
「当たり前じゃないですか…だって一緒にいたかったんすよ…」
「うん、ごめん」
「やだ」


何一つ面白くない。結局、名前さんはいつものように余裕があって、余裕がないのはいつだって俺の方。今だってすんなりとごめんとまた口にしてさ。だから、俺はやっぱりガキだなって思うけど、ガキならガキらしくあるべきだ。



「そっか、やだかぁ…。じゃあ、千冬と明日も一緒に過ごせないのかな」
「…あした」
「予定、1日勘違いしててね、今日だったから明日は1日空いてるんだよ、だからクリスマス一緒に過ごせるなって思ったんだけど」
「っ」
「千冬、怒ってるもんね」
「名前さん、いじわるすぎます」
「あたしだって結構凹んだんだからおあいこ」



クスクス笑う名前さん。

あぁ、俺はまだしばらくこの人に勝てそうにない。





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