千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

松野千冬の決意




俺、松野千冬は悩んでいた。

いつものように特服に着替えて、髪型も整えて。ここは別に問題ではない。

靴を履き、玄関を出て階段を降りていく。


「千冬〜集会行くぞ〜」
「はい!」


既に外に出ていた場地さんはポケットに両手を突っ込んで、かったるそうに立っていた。当たり前だが、俺と同じように特服姿になって。俺は駆け寄って場地さんの愛機であるゴキに跨って、いつものように武蔵神社へ。


ごめんなさい、場地さん。


一緒にいるって言うのに、今俺は正直言うと一緒にいるのが何よりも気まずいっす…。








「ん、けーすけ…?言ってないよ」
「言ってないんすか?!」


名前さんは飄々とした様子で、うん。と肯定しながら紙パックのミルクティーを飲んでいる。俺は思わずびっくりして声を上げてしまったが、名前さんは微動だにしないところが俺と違って高校生ならではの余裕って感じに見えてしまって、自分で思っておいて悲しくなる。


「圭介、話聞かないもん」
「…いやでも、」
「だいたい、時間被らない時は全然会わないからね」
「名前さんもバイトとかありますもんね」


団地の階段の踊り場に座って話す俺たち。学校から帰ってきたばかりの名前さんは制服姿でスカートだって言うのに、気にした様子もなく階段に座っていてスラっと見える足元が気になりつつも、目を逸らした。俺たちが今話題にしているのは、名前さんと付き合ってることを場地さんに伝えたのかと言うことについてだ。


「メンバーには伝えたのもアイツらが聞いてきたからだし」
「だから場地さん知らないんすか…」
「千冬こそ、言わなかったの?」


ストローを咥えたまま、んーと声を漏らして話す名前さんは恐らく言葉の通り、あのオニイサンたちに話した日のことを思い出しているのだろう。てっきり、名前さんが話した思っていたら、予想外の言葉に俺は言葉も出ない。名前さんの言い分もわかりますけど…。


「…俺から言うのもなんて言うか…」
「まあ、尊敬してるあなたの姉と付き合ってますって言い難いよね、本人にも周りのいろんな人にも」


正直言って、グサっときた。名前さんからすれば意味深ではないかもしれないけれど、このタイミングで言われるのは意味深な言葉にしか聞こえない。名前さんは前をぼんやりと見つめていて、その表情からは意思が汲み取れないから尚更だ。


「あたしより、千冬といる時間のほうが長いから、話す機会あると思ってたけど。あたしから言っておくよ」


ここで、はいお願いします。って言うのは違う気がする。名前さんの言う通り、俺の方が場地さんと一緒にいる時間は長い。学校や東卍での集会含めて。それなのに名前さんから言ってもらうのはどうなのか?しかも俺のいないところで伝えられて、伝えましたの後、どういう風に顔合わせすればいい?むしろその方が気まずくないか?


「俺が伝えますんで、言わないでください」


思考回路をぐるぐると回しに回して見て行き着いた答えだった。そりゃそうだ、これが一番無難だ。いくら名前さんの方がお姉さんで場地さんが弟で身内で話やすいとしても、ここで俺が言わないのは違う気がする。


「俺がちゃんと伝えますから」
「千冬がそう言うなら良いけど…、無理しないでね」


名前さんは困ったように笑ってた。多分俺の心境を悟ったんだろう。だけど、ここで引き下がるわけにはいかない。俺はしっかりと場地さんに伝えなきゃならねぇんだから。「親に挨拶に行くわけでもないんだから、」どうとかって名前さんが呟いてたけど、俺にとっては多分場地さんたちの母さんに伝えるより断然緊張するやつだからな…って心の中で呟いた。






ってやりとりをしてから、今に至る訳だが。

東卍の集会に来て、いつものように集会は行われていた。いつものように、何事もなく事なき終えて各々砕けた空気の中、雑談を始める。


「名前、会いたかったーっ!」
「エマ、声おっきいよ〜っ」
「えへへ!」



視界の端で名前さんがマイキーくんの妹のエマちゃんに抱きつかれてるのが見えた。ほんと、あの二人は仲が良い。女同士、ウマも合うのだろう。エマちゃんは知ってんのかな…、名前さんのことだから言ってるかもしれないし、場地さんの時みたいに言ってないかもしれない。今のやり取り的にも二人は久々に会ったようだし、多分名前さんが退院してから初めてなのかもしれない。


俺が確実に知ってるのは名前さんのバンドメンバーってことだけ。エマちゃんが知ってたらマイキーくんたちにも話は行ってるだろうし、となると今頃大騒ぎになっていてもおかしくない。…となると、シンイチロウくんも知ってることになるんだろうな。シンイチロウくんが知ったら、名前さんはどんな反応をするんだろうか。



「千冬ぅ〜」
「え、あ、はい!なんすか、場地さん」
「姉貴連れて帰ってろ。俺らまだ幹事会で残るからよ」



場地さんに声をかけられてハッとした。露骨に名前さんを見過ぎていた気がする。慌てて場地さんに視線を移せば、場地さんはめんどくさそうに名前さんを、顎で差して帰るように指示してきた。なんだかんだ、場地さんもあの一件以来、名前さんを気にかけているのが伝わってくる。あの時の場地さんの表情を見ればわかる。


「はいっ、責任持って送らせてもらいます!」
「おう、任せたぞ〜」


俺は場地さんに頭を下げて、名前さんの名前を呼ぶ。事情を伝えれば、エマちゃんは駄々を捏ねていたけれど名前さんも二つ返事で納得してくれた。


「エマはまた今度一緒にお茶しよう」
「うん…、約束だよ?」
















東卍の集会場から離れてやっと二人きり。


「名前さん、すんません」


結局、場地さんに打ち明けることなく名前さんと帰ることになってしまって、俺はまず名前さんに頭を下げる。俺が言う!なんて豪語しといて結局言えなかった情けない奴だと思われても仕方ない。


「ううん、タイミングもあるからね。大丈夫だよ」
「名前さん…」
「それより、千冬と一緒に帰れて嬉しいからチャラかな」



名前さん、優し過ぎでは?街灯に照らされた名前さんは嬉しそうにはにかみながら、そっと俺の手に触れる。バクバクいう心臓の音が伝わりそうで誤魔化すようにギュッと手を握りる。


「名前さん、」
「んー?」


足を止めて、名前さんの名前を呼んだ。名前さんは俺につられて足を止めて、どうしたの?って言いたげな声色で俺の方を向く。だから、俺はその頬に手を添えて顔を近づけた。目を見開いた名前さんと目があったときには、名前さんに重ねた唇から離した時。ポカンとした表情で、瞬きをすることも忘れて硬直している。



「…名前さん、好きです」
「ち、ふ…」



ギュッと改めて手を握って、想いを伝えれば状況をやっと理解したらしい名前さんが唇をキュッと結んで頬が一気に赤くなった気がする。


「俺、年下だし頼りないかもしれないけど、ちゃんと名前さんのこと守らせてください」


まっすぐ、名前さんを見つめて想いを口にした。名前さんは段々何かに耐えきれなくなったように小さく震えて、俺の肩に顔を埋める。



「…千冬はいつでも頼りになるから、」


大丈夫だよ、と。呟いた言葉に胸が熱くなった。


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