千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

触れた指先の体温




名前さんが襲われた日から数週間、

つまりそれは俺が思いを伝えてからも時間が経っていた。

ガヤガヤと騒がしい店内、四人掛けのテーブル席に座る俺の横には誰もいない。ただ俺の目の前には金髪のオニイサンとメッシュのオニイサン、名前さんのバンドメンバーの二人だ。改めて見ると高校生なだけあって、体格も俺なんかよりデカいしそんな二人が向かい側で同じソファーに座るから少し窮屈そうにも見える。

まあ、こちら側に一人来られても困るんだが。


「ちふゆくん、名前と付き合うことになったんでしょ?」
「はい、」


テーブルに肘をつき、カップに入ったストローだけを咥えて金髪の方のオニイサンがニンマリと笑う。横でメッシュのオニイサンが静かに我関せずって感じでポテトを食べていて、俺は言われた質問に素直に答えるだけ。正直言って、居心地が良いとはお世辞にも言えない。


「アイツ、ずーっと悩んでたもんな。歳上だし、友達の姉が突然話しかけたら変かとか、」
「はあ…」
「所詮、友達の姉だよな〜とか。あ、歳上から好かれるってどう思う?!って言ったりもしてたもんな」


ケラケラ笑う金髪のオニイサンいわく、名前さんの話っぽいけど。名前さんからも二人との話は聞いていたけれど、こうやって目の前で別の視点からそれを楽しそうに話すところを見てしまうと、改めて自然と距離感の近さがすごく伝わってきた。



「そんなに悩んでたんスか…?」


今までなら、そんな距離感にモヤモヤした気持ちの方が先行していただろうけど、今は違う。割と冷静に話に耳を傾けていたし、言われた言葉を聞いてちょっと驚いた。



「名前は割と悩むし臆病な性格だからな」
「へらりとしていて中身は繊細だよ」



さっきまで話を聞き手に回っていたメッシュのオニイサンはこの手の話題には乗っかってこないのかと思えばそうではなかったらしく、ここでやっと口を開く。その言葉を聞いて、金髪のオニイサンがさっきまでの軽口が嘘みたいに静かに呟いた。その目は慈しんだ色をしていて、俺は口を結ぶしかない。



「だから、俺らあの日東卍の集会に行ったんだもんよ」


あの日、とは…と思っていれば、「あの日、俺らが初めてちふゆと会った日のことな」と教えてくれる。ストローをコップから抜き取って、俺に向かって差しながら。



「普段通らねぇ道通ってさ。名前の言ってるちふゆに会えたら良いなって言ってさ。俺たちも見たかったし」


抜き取ったストローを再度コップに戻して、かき混ぜることにより動く氷がカラカラと音を立てる。


「すぐ見てわかったよ、あぁコイツがちふゆだなって」


ふっと笑う表情に俺は何故かドキッとした。多分、その余裕ある雰囲気から何かを見透かされるんじゃないかと思ったから。口の中が乾く、言葉が出ない。雰囲気に飲み込まれる。



「そしたら、めちゃくちゃ敵視されてて笑っちまった。なんだ心配ねぇじゃんって」


そう思ってたはずなのに、すぐにさっきまでのようにケラケラとした笑いを浮かべていて、あぁこれが俺とこの人の違いなのかなって思わずにはいられなかった。高校生として、年上としての余裕、っていうのか。結局、あの日俺が思ってたモヤモヤも見透かされていて、この人たちには俺の気持ちとかモロバレだった訳で、ってことは名前さんにもバレてたのでは?と一気に混乱の波が押し寄せてくる。



「言ったろ?あいつ、繊細で臆病な性格もしてるから、気づいてねぇよ。むしろ、けーすけの姉として相手してくれてるだろうからって言ってたけど、どんだけけーすけ好きなんだよ」



俺がわかりやすいのか、この人の観察眼がすごいのか。どっちかはわからないけれど、またバレてる。呆れた様子で場地さんとの関係を聞かれて、「場地さんは俺の憧れて尊敬する人っス」と答えた。それは事実であり、自信を持って言えること。確かに、最初は言われた言葉の通りかもしれない。見知らぬ女が来て、不審にも思っていたし、そうしたら場地さんのお姉さんって話でさ。

第一印象こそこれだったけれど、知れば知るほど目が離せなくなったのは場地さんのお姉さんって興味からの延長線でいつしか繋がってしまった恋への意識。きっと、場地さんのお姉さんじゃなきゃこんなにも話すことも見ることもなかったと思う。場地さんのお姉さんだったから、新しい場地さんも知れたし、話していて楽しいと思ったことだってある。そう考えると、確かに言われた通り、俺って場地さん好きすぎじゃね?って思うが仕方ない。

恋愛だって何がきっかけで繋がるかなんてわかんねぇもんな。


「自分の方が年下だからって、モヤモヤすることあると思うけど、支えてやってな」
「名前の場合、年上ってことより長女気質が出ちまうことが多いからグイグイ行った方がいいぞ〜。じゃねぇと自分で気の抜き方分からずパンクするから」


名前さん自身が二人を良い仲間だとと言っていた意味がわかった気がする。二人は名前さんのことをとても理解していたから。何より、大切にしてるんだなってこともわかったからこそ、そのお互いの想いがストンと自分に入ってきてしまい、自分よりも全然近い距離感を目の当たりにされて逆にどうするべきかわからなくなる。


「ちょっと、何話してたの?」
「おつかれ〜っ、ちふゆと雑談っしょ」



バイト先のシフトを確認するためにやってきていた名前さんがシフトの確認を終えたらしく、俺たちの座席にソフトドリンクを持ってやってきた。その表情は何かを勘ぐるように、眉間に皺を寄せていて、こんな表情を見ること自体、珍しいと感じる。それなのに金髪のオニイサンの方はなに一つ気にすることなくケラケラと笑いながら手を煽っていた。名前さんは納得いかない表情で、だけど立ったままというわけにもいかず、俺の横に腰掛けてムスッとした表情。


「変なこと言ってない?」
「言ってねぇって。名前が千冬のこと好きなのにウダウダしてたこと言ってただけだから」
「なっ」


そこから脳内処理されるまでに完全にラグがあった。金髪のオニイサンの発言に言葉を失った名前さんは絶句したかと思えば、口をパクパクさせて一気に頬が赤く染まった。「っしんじらんないッ!」と声を荒げてテーブルにぶっ潰してしまった。



「名前、俺は言ってないからな」
「どうざいだよ、ばか…」



メッシュのオニイサンがポテトをモグモグと無表情で咀嚼しながら、フォローするかのように伝えるも名前さんにとっては後の祭り。ぶっ潰した状態で喋るからくぐもった声がテーブルより発せられる。名前さんってこんなに表情が変わるんだ…って思ったし、俺からすれば嬉しい反応だ。だって、俺のことでこんなにも感情的になってくれているのだから。



「名前さん」
「…なに」
「俺、嬉しいです」


名前さんの名前を呼ぶ。変わらずテーブルにぶっ潰したまま、ギギギと首を動かして長い髪の毛の隙間から、名前さんの赤くなった頬と耳、そしてゆらゆらと揺れる瞳と目が合う。俺は素直に思ったことを口にすれば、ヒュウとどちらかが吹いた口笛が耳に入ってくる。多分、金髪のオニイサンの方なんだろうなって俺は思いつつ、名前さんを見つめていれば「っ、もお〜っ」と再びテーブルの方へと逆戻り。


「っぇえっ?!」
「ぶはっ!名前照れすぎっ!」
「ちふゆも表情緩んでる」
「だって…!っ…」


思ったことを言っただけなのに、名前さんから視線を外されてしまうとは思わなかった。余裕のない名前さんが見れて嬉しさ反面、この目の前の二人との距離が埋められない代わりに見せつけられたらって思ったのにそれも空回り。結果、二人にはめちゃくちゃ笑われたしちょっとだけ悔しくて、反論しようと思ったけどそれさえもやめてしまった。だって、ソファーに乗せていた手に、そっと名前さんの指が触れたから。二人からは見えない位置だから、二人はなにも知らずに名前さんをからかっている、主に金髪のオニイサンの方だけど。段々調子を戻してきた名前さんも「うるさい、」などと反論し始めているけれど、次は俺が黙ってしまう番。

結局、余裕がないのは俺もおんなじか…。


触れた指先の体温が熱くてその熱がみんなにバレませんようにと心の中で呟いた。


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