千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

シンプルで簡単な気持ち



「真一郎くんは多分あたしの気持ち気づいてたと思うし、ずーっと色々考えて見てね。本当に好きだった時はあったと思うけど、今は憧れの方が強いかな」


ふわりと風が舞い込んできた気がする。風に乗っかって聞こえてくる名前さんの声。視界の端に入るその手は少しだけ震えも落ち着いた気がする。


「いっぱい悩んだ時もあったし、もどかしく感じたこともたくさんあったの。高校に入ってから世界観っていうのかなぁ…、視野が広がったってのもあるかも」


その証拠に俯き気味だった俺に名前さんの手がそっと触れていて、名前さんの体温が伝わってくる。少しだけ温かい手のひらに俺は視線を上げる。名前さんは笑ってた、俺は多分浮かない顔をしているというのに。


「あたしね、千冬のこと会う前からずっと知ってたんだ」








「圭介はさ、普段自分から話さないし面倒くさそうにもするけど、なんだかんだ聞くと色々話してくれるから、東卍のこともそうだし千冬の話も聞いてたの」


場地さんと家で俺の話をすると聞いてはいたけど、まさかそんな。


名前さんはあった出来事を思い出しながら話し出す。「最初はね、面白い子だな〜って思った。千冬に漢字教えてもらったとか、ケンカが強いとか」つまり、名前さんは俺と場地さんの初めてのことも知ってる。そんなにも話が筒抜けだったんだ…と思うと、いつもなら気恥ずかしくもなるのに、やっぱさっきの話を聞いた後だと、どこか冷めた自分がいるわけで。


「千冬がケンカしてるのも見たことあるんだよね」
「えっ、いつっスか?!?」


意外だった言葉が出てきてしまい、思わず顔を上げてしまった。ケンカってどの時のケンカなのか。やっぱり見られるなら少しでもカッコよく終わった時が良いけど、どの時であったって既に全て過ぎたこと。今更なのはわかっているのに、反応してしまったのはもはや条件反射。こんなあからさまに反応してしまってる時点でダサいよな、と後々気付くけど名前さんは楽しそうに笑っているだけ。


「いつだろ、すっごいボコボコにしてたし、千冬もされてたんだよね」



ボコボコにしてたし、されてたって、ホントいつ。



「だけどさ、最終的には勝っててさ。ケンカが良いとは思ってないけど、一人でも諦めないでいるのは純粋にかっこいいと思った。それから圭介との話で千冬のこと知ってね、東卍の集会の時に、あの時の子だ〜って思ったら壱番隊の副隊長でこの子が千冬だ〜って思ったの」



名前さんの話を聞いて思い出したのは、初めて会った集会の日。名前さんは俺のことを見て納得したような言葉を漏らしていた。あの日、あの言葉はてっきり場地さんが壱番隊だったから、壱番隊ということにだけ反応したのだと思っていたけどその真意は違ったことを知る。俺のことを知っていたから、俺が松野千冬であることをイコールで知ったことへの納得感。


そんなの、俺は知らない。



知らなかった真意を今初めて知った。



「千冬、ひとつだけ質問して良いかな」
「え、はい」


真っ直ぐ見つめられる視線。少しだけ揺れる瞳。名前 さんは唇を少しだけ動かし、何かを言いかけては一旦結ぶ。視線を少しだけ泳がせたかと思えば、再びその瞳は俺を捉える。


「千冬が助けてくれた理由は圭介の姉、だから…?」



心臓がドクンと大きく脈を打つ。聞かれた質問は耳から入り、脳へと伝わり何度もその言葉の意味を咀嚼する。至ってシンプル、難しい質問ではないのに俺の頭の中では思考が駆け巡り、言葉を詰まらせてしまう。そしたら名前さんは俺の返事より先に「って、ごめんね。突然」そう言って笑っていた。少しだけ困ったように。


「まず、あんな風に絡まれてたら千冬は誰だって助けそうだよね」
「…場地さんのお姉さんだし、オンナがやられてるってのもありますけど、名前さんだったから、めちゃくちゃボコったしお見舞いに来てます」
「…ちふゆ、」
「名前さんだったから、こんな風になったの何でもっと早く助けられなかったんだろうって思ったし、俺は見てるのがツラいです」


困ったように笑う名前さん。だけど、俺は俺の中で整理して出てきた気持ちを言葉に変える。思い出すのはあの日の光景であり、全て俺が思った気持ち。

シンプルで簡単な質問。

だけど、俺にとってはシンプルじゃないし簡単な答えではない。例えば、あの日なんでもっと早くあの道を通ってなかったのか、見つけた瞬間に何で助けなかったのか。今だってまだ治りきれてない傷を覆うガーゼだって見るたびに胸が痛くなる。


「名前さんが好きです」


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