千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

触れることさえ許されず



「名前、大丈夫か?」
「うん、すぐ退院できるから」
「ごめんな、俺ら一緒じゃなくて」
「気にしないで」



病室から聞こえて来るのは、優しい声色をした名前さんのものだった。病室の中を覗けばそこにいたのは名前さんと前の一緒にいたところを見たことがあるバンドメンバーって言ってた人たち。名前さんがいるのは四人部屋の右奥、ここからだとカーテンによって見えない。



「じゃあ、俺ら行くから。なんかあったら連絡して」
「うん、ありがとう」



二人が名前さんに声をかけてこちらにやって来る。入り口で立ち止まっていた俺は必然的に顔合わせる形となるが、どんな表情でいるべきか分からず視線を逸らしていれば、すれ違う時に「ありがとな」と呟く声がした。


そんなこと言われても…。俺に何ができるのか、今回だけはどうするべきなのかわからず立ち竦んでしまった。





「名前さん、」
「…ちふゆ?」



此処まで来て顔を出さない選択もできず、俺はおずおずとしながらも名前さんの前に顔を出す。名前さんの頬には大きなガーゼが貼ってあって、それがまた痛々しさを増す。俺に気づいて一瞬驚いた表情を浮かべるも、すぐにふんわりと笑ってくれて、それがまた俺にはどういるのが正解なのかを迷わせる。



「千冬、助けてくれてありがとう」
「…はい」
「座ってよ、」



名前さんは気丈に振る舞ってるのかもしれない。そう思ってしまうぐらいには普段通りだった。俺は名前さんに言われてそばにあるパイプ椅子に腰掛けた。



「千冬も圭介も。マイキーたちもさ、真っ向勝負!って感じの不良やってるから、それが当たり前だと思ってたけど、不良でもやっぱりセコイ、クズで卑怯なやつっているもんだね」



名前さんは窓の外に視線を移して一人話し出す。



「圭介たちがチーム結成してからさ、東卍の場地だって話が通ってたし、バンドやってると、いろんな人と会う機会があるけど、なかなかクズな奴が多くてね」


 


あたし、襲われかけたことあるんだ。





聞き間違えかと思った、突然言われた言葉に俺は言葉を失う。けど、困ったように笑う名前さんを見て、本当のことなんだと自分の中に重くのしかかった。


「ちなみに助けてくれたのは真一郎くんたち。前にも会ったよね、マイキーのお兄ちゃん」
「え、そうだったんすか…?」
「あれ、むしろ知らなかった?」


突然出てきたシンイチロウという名前と関係性。名前さんは俺が知らなかったことに目を見開いていたし、俺もびっくりした、マイキーくんに歳の離れた兄がいると聞いてはいたけど。だから場地さんも慕っていたのかという謎の納得感。だって、場地さんの憧れだって言ってたから。



「メンバーには恵まれてるし、人とのご縁も強いと思ってる。さっきのアイツらもびっくりするぐらいいい奴でね。見た目こそチャラいけど、根は真面目で曲がらない芯があって、圭介たちみたいだなって思ったの。あぁ、男が無理だって思った時もあったんだけど、だいぶ薄れさせてくれた感じかな」


名前さんの知らない一面、知らない過去。



「そ、なんすね」



こういう時、うまく言葉にできない自分がもどかしくて。相槌を打つような、歯切れの悪い言葉しか出てこない。


「名前さんは、シンイチロウくんが…好きなんすか?」


聞くつもりはなかった。けど、まさか此処で名前が出てくるとは思ってもみなかったし、名前さんの話を聞いてしまったら、気づけば口にしていて俺自身も驚いた。それは名前 さんも同じだったようで面食らった顔で俺を見る。



「うん、そうだね…、元々面倒見のお兄ちゃんって感じで好きだったけど、助けてくれた時から見方は変わったかなぁ…」

 

助けてくれてから、よりかっこよく見えてたんだよね。

そう笑いながら話す名前さん。気丈に振るう名前さんの手は言葉と裏腹に震えていた。

 

「まあ、一番のきっかけってそれかな。どうだろ、あんまりハッキリしたことわかんないけど」
「…そっか」
「真一郎くんてみんなに慕われてて、面倒見よくって。マイキーたちはいろいろ言うけど、かっこいいんだよね」


あー、俺失恋じゃん。

震えてる名前さんの手を握りてぇけど、俺がそんなことするのも違うもんな。名前さんの顔を見てられなくて視線を逸らす。廊下から話す声がするのは多分看護師さんたちの会話だろう。そういえば此処は四人部屋だというのに、一つは空いていて、もう一つはカーテンで覆われていた。


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