それはエゴイスト
※暴力表現あり
東卍は仲間のためにあるかっけぇチームだ。
中でも場地さんはマジでそんな男だと思う。
不良と言われるチームだけど、俺はこのチームにいれて誇りに思うし何より憧れの人のそばにいれて嬉しくないわけがない。
だけど、そんなの所詮、自分のエゴだったと思い知らされる。
今日は場地さんと一緒じゃない。
場地さんは月一でドラケンくんと2人で会ってる。だから俺も今日はペケJのエサを買いに行こうと思って放課後、寄り道を決めていた。
人気が多いわけではない道の途中、ふと視線の先には人集りが。よく見ればどっかの不良らしく、品のない笑い声。ドゴっと鈍い音が耳に入ってきて、それは人というものを殴ったことはすぐに分かった。喧嘩をよくする人間として、嫌でも耳慣れた音。人物こそ見えなかったけど、ゴホッと殴られた側の声が漏れてきて、こんな場所で何やってんだか。そう思ったのが第一印象だった。
「おいおい、気ぃ失うなよォ…?」
「お前、エサにすんだからさ。場地のヤツも人質いりゃァ、身動きできねぇだろ」
「っ、ぁ」
「自分のオンナ、ヤられてどんな反応すっかなァ…」
ばじ、バジ、場地…?
聞き覚えのある単語が聞こえた、しかも他の聞き間違えることのない場地さんの名前。俺はそいつらに視線を移して凝らして見れば、男らの前で蹲るソレはよく見れば女だった。長い髪を掴まれて、引っ張られていて女相手に何をやってんだ、と思っていたのはほんの数秒だけ。むしろ数秒であっても少し前の自分を殴ってやりたい。隙間から見える女の格好は制服姿で、見える端々の衣服が見覚えのあるもので見れば見るほど血の気がサッと引いていくのが分かった。
「…名前さ、ん」
口の端は切れていて、殴られた衝撃か痛みなのかわからないけれど、意識が朦朧としてるようでぼんやりとしか開いていない瞼と焦点の合わない目。
「泣かせてぇなァ」
「まーだ今じゃねぇだろ」
沸々と湧き上がるのはなんだ。
「あ?なんだよ、てめぇ」
「ビビって動けねぇのか?」
ずっと見てることにより、俺に気づいた男たちがこちらを見て啖呵を切り鼻で笑われる。
どうやら俺は眼中にないらしい。
それもそうだ、今は特服を着ていない、制服を着たただの中学生。
「場地、呼び出せ」
「…っ、け、すけ、ぉ、…なじゃ…」
「ハア?お前らが一緒にいるのはこちとら何回も見てンだよ…」
ゲホッと吐き出しながら紡ぐ声は掠れていて聞き取りにくいものだった。名前さんが辛うじて出した言葉を男たちは聞き逃さなかったし、何言ってんだって言いたげな表情で無理矢理名前さんの髪を引っ張り上げ姿に俺の中で何かがブチっとキレたのが分かる。
そこからの記憶は定かじゃない。自分の手には血がついていたけど、自分のではない。殴った誰かの血だろう。だけどそんなの今はどうだっていい。俺の腕の中にあるのはボサボサになった髪に殴られて腫れた頬、そして意識を飛ばしたことにより瞳を閉じた名前さんだった。
「は、千冬?って、おい」
「…名前…、誰にやられた」
場地さんをどうやって呼び出したっけ、自分が連絡したんだか、たまたまだったのか。場地さんは名前さんを見るなり停止。横にいたドラケンくんが代わりに口を開いた。
俺は自分が知る限りのことを伝えた。既に絡まれていたこと、名前さんがボロボロだったこと、俺がその場にいた奴らとやり合って、此処まできたこと。全てを話し終えた時、場地さんが舌打ちをする。どうやら、場地さんが前にボコった奴ららしい。それを知ったのは名前さんを病院に連れて行き、身体的外傷は認められて気を失っているが、命に別状はないと診断された話を聞いた後だった。