千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

奪われたのは視線だけじゃない



初めて名前さんを見たのは集会の時だった。




「あっれ、今日集会なんだ」



この場に似つかないソプラノの声。
ビニール袋を片手に持ったその人は、ショートジーンズにTシャツ姿でビニール袋を持っていない方の手に持っていたアイスキャンディを口にしていた。

ここら辺では見慣れない女の人は、暑いと言うのに綺麗な黒髪を下ろして、ボンヤリと階段の上を眺める。東卍での集会を終えて、幹事会をしている最中。今まさにこの階段の上で行われているのだ。



「ふぅん」



何かをするわけでもなく、意味ありげに納得した様子のその人はアイスキャンディーに噛み付く。なんなんだこの女…、と思いつつも何故か目が離せなくなった俺はソイツをジッと黙ったまま見つめるだけ。しゃくしゃく、と音を立てながら無表情でアイスキャンディーを食べ進めていく。咀嚼する間、階段の上を眺めるだけで視線が動くことがない。そう思っていれば、俺の視線に気づいたのか突然バチっと視線がぶつかった。



「あ、壱番隊」



その女は壱番隊と言った、確かに言った。


思わず、は?って言いたくなった。

俺はこの女を知らない。けど、この女は東卍を知ってる口振り。なんなら、壱番隊まで。おそらく特服を見て判断したんだろうけど、なんなんだ、と募る不信感に俺の眉間に皺が寄るのは自分でもわかった。




「そっかぁ」




と、俺の気持ちとは裏腹に女は勝手に納得して、唇をぺろりと舐める。その仕草がちょっとだけ、魅惑的に見えたのは暑さのせいだと思いたい。目が合っても移動せず、勝手に納得する女。俺が見たって平然として目を合わしたままの女が訳が分からなくて、募るのはモヤモヤとした感情。このままじゃ何もスッキリしないのは明らかなので、ノープランだけどとりあえず声をかけてることを決めて口を開いた時だった。



「名前じゃん!!!!」
「やっほー、マイキー」



階段の上から、飛び降りてきたのはマイキーくん。どうやら、幹事会を終えたらしい。まるで飛んできたかのようにやってきたマイキーくんは、その女を名前と呼んだ。女はさっきまでの無関心そうな表情はなかったように、ふんわりと柔らかい笑みを浮かべて軽く手を振る。



「なになに、どら焼き?たい焼き?」
「どっちもないから」
「えー、じゃあ、アイス」
「それもないよ」



マイキーくんは女のビニール袋を勝手に覗いては軽くかわされて、女の食べているアイスを見て思い付いたように強請ってみるがそれも断られて、ブウ垂れる。そんなマイキーくんとのやり取りは慣れっこなようで、女は声を上げて笑った。



「おい、場地ー!」
「あ?んでいんだよッ…!」
「何でってコンビニの帰り、ペヤングもあるよ」
「アイス一口くれ」
「あっ、圭介の一口大きい…!」




ここまでの流れが正直ついていけなかった。
マイキーくんは場地さんを呼び、階段から話しながら降りてくる場地さんは女の存在を見るなり、何とも言えない表情を浮かべる。その時点でこの女と関わりの深さが窺えるのだが。場地さんは階段を降りてくるなり、女の持っている袋の中身を見て言葉の通り、ペヤングがあったのだろう。それを見るなり嬉しそうな表情に切り替わったかと思えば、そのまま女の手にしていた食べ掛けのアイスキャンディーに噛み付いた。そうしたら次は女の方が面白くなさそうな表情を浮かべて、場地さんをジト目で見つめる。



「場地さん…」
「どうした、千冬」
「場地さん…、彼女…ですか」



俺の視線に気づいた場地さんの瞳が俺を捉えた。いや、気づいたら俺の口から場地さんの名前を呼んでいた気もする。場地さんは不思議そうな表情で俺を見てくるけど、俺からすれば状況が飲み込めなさすぎる。明らかに俺だけが置いていかれているこの現状に、ずっとモヤモヤして抱えていた疑問を口にした。



「っハァ?」
「えっ誰が?名前が?誰の?」



場地さんは思いっきり眉間に皺を寄せて、苦虫を潰したような歪んだ表情を浮かべた。その横でマイキーくんは、何々?!?!と俺と場地さんを交互に視線を移す。あれ、違うのか…?



「圭介、彼女いたの?」
「ざっけんなよ…」
「だよね〜、圭介はいつだってちふゆ〜って話ばっかだもんね、そりゃできないよ」
「…うるっせぇな、姉貴」



女は俺の言葉に乗っかって場地さんに問い掛けていて、その表情はどこか楽しんでいる様子。場地さんの凄みある視線にも怯むことなく、ケラケラと笑って、どう頑張っても似てない場地さんの口調を物真似ていた。



「え、あね、?」
「ちふゆでしょ?あたしは圭介からよく聞いてるのに、圭介から聞いてない?」
「んで、わざわざ姉貴の話する必要があンだよ」
「ペヤングもう買ってこないよ」



俺が勘違いしていたその女は場地さんのお姉さんだったらしい。予想外の答えに思考が停止して更についていけなくなった。名前、と確かマイキーくんは呼んでいた、はずのその人をまじまじと改めて見つめてみる。黒い髪、ぐらいじゃ似てるとは言い切れない。あ、今の笑い方とか、ニッて歯が見えるところとか似てるかもしれない。



「場地さん、家で俺のこととか言って、るんですか…」
「うん、ちふゆちふゆ言ってる」
「そんなに言ってねぇだろ」
「言ってるよ。勉強教わったとかケンカ強いとか」



純粋に嬉しかった。最初こそ、なんだこの女って思ってしまったが、お姉さんありがとうでしかない。つーか、この初見印象って場地さんの時となんか似てる気がする。誰だってこんなの予想できないはず、ひょんなことから場地さんの俺の知らない一面が知ることができて心の中でガッツポーズをした。




「最初は、ちふゆって名前だけ聞いてそれこそ彼女かと思ったんだけどね」
「ンなわけあるかよ」
「名前だけ聞いたらあり得るから」




あぁ、こうやってやり取りを見ていると2人が姉弟って関係に納得しやすくなった。ズケズケと言い合うところとか?そんなことを思いながら、2人のやり取りを見ていれば名前さんが「ちふゆ!」と俺の名前を呼ぶ。あ、今の表情とか場地さんっぽい、かも。



「圭介と一緒にいてくれてありがとう、これからもよろしくしてあげてね」
「っはい」
「ふふっ、ちふゆってかわいーね」
「あ、えと」
「千冬困らせんな」



良いじゃん別に〜、と呟く。完全に入る隙がなくなってしまった訳だし、名前さんは初めてだと言うのに目を奪われてしまったのは場地さんのお姉さんだから、だって思いたい。








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