千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

喉の奥に仕舞い込んだ言葉





目の前には紙とシャーペンを持ってボーッとしている名前さん。ここはちなみに場地さんの部屋だ。場地さんといつものように部屋でダラダラしながら漫画読んで、ペヤング半分このしてて。そしたら、帰ってきた名前さんが紙とシャーペンを持って座り込む。


最初こそ、入ってきた瞬間は場地さんも「あ?」なんて反応していたが、名前さんの様子を見て何かを悟ったのか、何も言わずに再び漫画へ視線を戻していた。俺は訳もわからず二人を交互に見るが、場地さんも何も言わねぇし名前さんも黙ったままそこに座って蹲るから声をかけようにも何で声をかけるべきかわからなかった。


「ん〜」


たまに唸る声がして、盗み見るように読んでいた漫画からちらりと視線を送ってみると紙を見つめて難しい表情を浮かべている。


多分、勉強とかじゃない…よなぁ…。


イヤホンをしていてコードの先には音楽プレイヤー。指をコツコツとさせては、何かを書いてまた動きを止めて、体育座りをして頭を埋めたり。たまにボタンをポチッと押してるから、巻き戻してるのか早送りしてるのか。俺も場地さんも漫画を読んでるだけだから、静かな部屋の中でカチカチとする音が響く。

気にしてても何もできないし、何より集中しようとしてるみたいだったから、俺も気にしないようにしていた。元々、場地さんの漫画を借りて読むために来ていた訳だし、そう思って再び自分が読んでいた漫画へ視線を移す。そんなこんなで、段々と名前さんへの意識も薄れてきた頃だった。一冊、読み終えた漫画を横に置いて次の漫画を取ろうとした際に、ふと顔を上げたら名前さんと目が合う。いつから見られていたのだろうか。膝を抱えて座りながら、無の表情で俺のことをじっと見ていることに一瞬驚いてしまい、たじろいでしまったが名前さんは微動だにしない。あれ、俺何かしたっけ、と思うが思い当たることは何一つない。むしろ、ずっとダラダラしてて気に障ったか?


「ちふゆ〜」
「はいっ」
「ピアス開けた時、どうだった?」


じーっと俺を見つめたままの名前さんが口を開いたかと思えば、出てきた言葉は俺の予想に反したものだった。ぴあす、ピアスって言いました?名前さんはどうやら俺の左耳についているピアスをずっと見ていたらしい。


「いたい?」
「まあ、痛くないわけではなかったっすけど」


うーん、俺としてみれば予想通り、というか想定してた痛みというか。体に穴を開けたり痛みを伴うことって言えば、墨を入れる方が絶対痛いはず。と、なるとピアスなんて一瞬の出来事でそんな痛みなんてすぐ忘れてしまう。


「名前さん、ピアス開けたいんスか?」
「ん〜興味はあるって感じかなぁ…」


ぼんやりとした声だった。はっきりしない口調で、名前さんは言葉を紡ぎながら何かを思い浮かべているのか、思い出しているのか。



「千冬も三ツ谷もドラケンも開けてるでしょ。あたしの周りも結構開けてる子多いんだよね」
「そうなんスね」
「実際、イヤリングよりピアスの方が可愛いのいっぱいあるからさ〜、良いなーって思うわけ」


さっきまでにらめっこしていた紙とペンは床に散らばったまま。名前さんは両手を手放して「あー」と声を漏らしながら天を仰ぐ。


「開けるなら、千冬みたいに片方じゃなくて両耳開けたいけど、痛みも2回ってことでしょ」
「でも一瞬っスよ」
「一瞬でも痛いのは痛いじゃん…。しかも耳元でだよ…」


耳元でされるってのがまた怖い…!なんて言いつつ、顔を顰める。名前さんのこういう表情も新鮮だなって思いつつも、そういえば場地さんも耳はつけてなかったよな、なんて思いながら視線を場地さんへ移す。漫画を読んでいた場地さんは俺らの話に興味も示さずに漫画を読み進めていたけれど、一回だけ顔を上げて「なんだよ」とダルそうに呟く。


「ピアスの話してて」
「姉貴、開ける気ねぇのにそればっかだな」
「開ける気はあるけど、怖いじゃん」
「だったら諦めろよ」


そう言ってまた漫画に視線を戻してしまった。場地さんに諦めろと言われても、うーんと悩む名前さんは諦めきれてない様子で。それもそうだ、さっきの会話の流れでも場地さんとは何度か話しているようだったし、場地さんにとってはこの手の話はもう飽き飽きなのだろう。だけど、踏ん切りがついていない名前さん、って感じだ。



「ピアス、開けても落ち着くまで時間かかりますよ」
「そうなんだよねー」
「第一、名前さんバイトでは大丈夫なんですか?」
「規定内だったら平気だった気がする」


とりあえずピアスを開けた場合の思いつくことを投げてみた。聞いててわかったのは名前さんは割と真面目に開ける方向で色々と考えていたんだなということ。じゃなきゃ、バイト先の服装についてとかもわかってないだろうし、答えられなかっただろうなって思う。


「学校…は大丈夫そうっすね」
「受験の時に響かないようにしなきゃなんないから、なんとも言えないけどね」


受験、その言葉を聞いて胸の中に何かがズシっと乗っかってきた。そっか、そういえば名前さんが高校生ってことは知ってた、けど歳や学年までは聞いてなかったな、と思う。受験ってことは高3…?と思っていれば、すぐにその答えは明らかになる。



「まあ、受験は来年なんだけどね、残り一年ちょっとの高校生活楽しみたいじゃん」


遠くを見ながらそう呟く名前さんは高校生活を謳歌しているのはすぐにわかった。楽しい高校生活。中学よりも楽しいって聞くけど、俺はまだ中学生だからそんなのもわからない話で。でもそれを知ってる名前さん。俺より3年早く生まれてるから知っていること。気づけばグルグルと自分の中で考え始めてしまっていて、ズンとしたものが自分の中にのしかかる。最近こんなことばっかだよな。



「ピアス開けるなら、千冬にやってもらいたいな」



俺の気持ちとか、考えなんて知らない名前さんが突然俺の名前をあげるもんだから、変な声が出そうになった。名前さんは、「んーっ」と声を漏らしながら背伸びをして笑ってるし。


「千冬なら上手にやってくれそうだなって。圭介は安心できないし」
「おー」
「それか三ツ谷かドラケンも上手そうだけど、ドラケンは諸事情により却下だね」
「どうせ開けねぇくせに」
「うるっさいなあ、もう」


場地さんの生返事はどこまで名前さんの言葉に耳を傾けていて、どこまでが適当なんだろう。名前さんの言葉はどこまでが本当でどこまでが冗談なのか。

俺は漫画を読んでいたことも忘れて、もし開けるのが本当なら、俺にやって欲しいのであれば喜んで開けるし、三ツ谷くんたちには譲りたくないなって思った言葉は喉の奥に仕舞い込んだ。





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