千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

甘い甘いお菓子が欲しい




「千冬、お前って甘いもの平気かぁ?」
「甘いもん、すか?」


場地さんと団地の踊り場で喋っていた時だった。場地さんは思い出したように何の脈略もなく突然話を切り出してきたから、俺は思わず聞き直してしまう。


「大丈夫っすけど、」
「んじゃあ、これやるわ」


俺、んな食えねぇし。そう言って場地さんがくれたのは可愛くラッピングされたツヤのあるキレイなスイートポテトだった。なんで場地さんがこんな可愛らしいものを持ってるんだろう、って思ったけどまあ良いか。もしかしたら、誰か女子からもらったものかもしれない。調理実習の可能性を考えたけど、それなら俺も近々作ることになるはずだし授業ではそんなこと言ってなかった、はず。


深く考えても別にどうでもいい、場地さんからもらったものをありがたう受け取るだけ。もしかしたら、ラッピングされてはいるけど市販のものを個包装したのかもしれない。それぐらい艶やかでキレイなスイートポテトだった。


「ん、美味いっすね」
「おー、なら良かったんじゃね。もう一個食えよ」
「あざっす」


袋から取り出して一口、噛めばさつまいもとかの甘みが口に広がった。この甘さが程よくて、すげぇ癒される。スイートポテトって美味いよな、自分からわざわざ買わねぇけど。







ある集会の日、



「みーつーやー」
「おー名前じゃん、どうした」


みんなで屯していれば、三ツ谷くんの名を呼ぶ声が耳に届く。みんな、なんだぁ?って感じで騒めく中、三ツ谷くんは当たり前の如く輪の中から抜け出して名前さんのところに歩み寄る。それを見かけたみんなは、あぁ…と納得したようにまた視線を逸らして各々話し始めてしまった。

けど、俺だけは視線が外せなかった。だって、名前さんが来ることの方が珍しいし、場地さんではなく三ツ谷くんを呼んだことも驚きだ。名前さんは制服姿で少し大きさのある袋を手にしていて、それを三ツ谷くんに差し出す。


「頼まれてたやつ、買ってきたのと。あとこれ、作ったお菓子入ってるから」
「サンキューな、助かるわ。けど、ここじゃなくて家の方が近くなかったか?」
「結局別のところ寄り道しちゃったし、集会って聞いてたから来ちゃった」



三ツ谷くんと名前さんは袋の中を覗き込んでいるから、二人とも顔の距離が近くて胸の中がざわつく。何も気にしない様子で話してるのが余裕を感じられて募るモヤモヤ。必要以上に聞き耳を立ててしまい、三ツ谷くんと名前さんの会話をこっそり聞いていれば、聞き捨てならない言葉があってビックリしてしまう。


「今回の何?」
「パウンドケーキ」
「美味そうじゃん」
「美味しくできたから持ってきたんだけど」
「名前のお菓子、基本失敗しないだろ」
「いやいや、する時はするからね」


三ツ谷くんは袋から包みを取り出して、中身を聞けばパウンドケーキと言った。しかも名前さんの手作り。俺だって食べたことないのに、なんで三ツ谷くん?この前のシンイチロウくんは?え?まさかの三ツ谷くん???俺の頭の中は大混乱だ。



「あ、名前〜!」
「おわっ、エマも来てたんだ」
「うん!」



場の空気を読まずに名前さんに抱きついたのは集会に来ていたマイキーくんの妹であるエマちゃん。突然背後から抱きついたことにより、名前さんはびくりと体を揺らして驚いている。エマちゃんの方はしてやったり、と楽しそうに笑っていたから二人は仲良いのかというのは見てわかった。



「マイキーに渡そうと思ってたけど、いたなら良かった。はい、佐野家の分」
「名前の手作りお菓子!やったね」



どうやら彼女にも渡すものがあったらしい。もう一つあった袋を渡せば、それはもう嬉しそうに喜んでいて、これは純粋に羨ましくなる。



「三ツ谷もエマもいいな」
「ドラケンにはないからごめんね」
「三ツ谷は贔屓かよ」
「三ツ谷のところはルナマナの分で三ツ谷はついで」
「ひでぇな、おい」



あははと繰り広げられる会話。気づけばドラケンくんも参加してるし、四人でわちゃわちゃと会話をし始める。そこには創設メンバーならではの距離感があって、集会にあんまり来ない名前さんだって初期からの繋がりなんだなってのは見て取れた。



「場地さん、」
「あ?どうした、千冬」
「名前さん来てますけど」



それまで興味がなかったのか名前さんの方を見てなかったのか、反応すらしなかった場地さんに声をかけてみるが、場地さんはすぐに「あー」と声を漏らすだけ。いつも思ってたけど場地さんは割と名前さんにそっけないというか、やっぱ姉弟だし近ず離れずって感じなのかもしれない。名前さんは場地さんに絡みに行くけど。



「そういや、三ツ谷んとこの妹にお菓子渡すつってたわ」
「名前さんの手作りみたいっすね」
「好きで作んだよ、んな食えねぇって言うのに」


場地さんは甘いもの得意じゃないもんな。うんざりした表情の場地さん、それは姉弟であり身内だからだよなって俺は思うし、俺からすれば場地さんも創設メンバーとの距離感も羨ましさしかない。



「だからあげてるんすね、良いな。俺も食ってみたいっス」
「あれ、千冬食べたんじゃないの?」



場地さんに言ったはずの本心がまさか名前さんに聞かれると思わなかった。気づけば三ツ谷くんたちの輪から外れて、こっちにやってきてた名前さんが不思議そうな表情で俺たちを見る。いや、それより名前さんはなんて言った…?



「圭介、千冬にあげてって言ったでしょ」
「あー?ちゃんとあげたし食ってたわ」
「え、何のことっスか」


ムスッとした表情で場地さんに問い詰める名前さんと少しだけイラッとした様子で返す場地さん。その話題は俺も関係あるみたいでほっとくにほっとけず、何故か俺がオロオロしてしまう。



「千冬、美味いって言いながら食ったつったろ」
「場地さん、いつの話っすか…?」
「スイートポテト」



食ったろ、美味いつってたよな。という場地さんの言葉を聞いて記憶を遡る。うん、確かにこの前、場地さんと一緒にいた時もらったし食った記憶もある。



「えっ、あれ名前さんが作ったんすか?!」
「おー」
「圭介、言わなかったんでしょ」


あの日のスイートポテト、まさか名前さんの手作りだとは思わなかった。俺は自分が思うよりも声が出てしまったが仕方ない。場地さんは何食わぬ顔で、肯定するし名前さんはバシッと呆れた顔で叩く。



「圭介は甘いもの食べないし、かと言ってここに持ってくるにしては数がないからね。圭介に千冬と会う時にあげてねってお願いしてたんだけど」


手作り、苦手な人もいるから大丈夫だった?って少しだけ不安そうな表情を浮かべていたから、俺は慌てて首を横に振る。


「大丈夫っス!名前さんの手作りって知らなくって、でも美味かったっス…!」
「そっか、良かった」


安心したように笑う名前さん。俺はその表情に深い意味があったら良いのにな、って密かに思った。


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