千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

自分の狡さを知る



とある休みの日。
場地さんに誘われて俺は場地さんの相棒、ゴキと一緒にバイク屋に行くことに。




「千冬ぅ、着いたぞ」



ボーッとしながら、ゴキに跨って場地さんの後ろにくっついて、着いたのは街中にあるバイク屋で、入り口でゴキを止めて店の扉を開けて入る。場地さんは店に入るなり、「真一郎くん、いるかぁ?」と言い出して、俺は一瞬で体が一気に自分のものじゃないような感覚に陥る。


「よう、圭介」
「真一郎くん、メンテして欲しいんだけど」
「はいはい、ちょっと待ってな」



場地さんの背中の向こう側から現れたのは、あの日名前さんをバイクに乗せて来た男だった。店の奥からタオルで手を拭きながらやってくるこの顔を俺はいやでも覚えてる。
場地さんも顔見知りだったんだ、と思ったらまた自分の中で何かがズンっとなったのがわかる。


場地さんは楽しそうに、シンイチローと呼ぶ男と話をしているのを俺はただぼんやりと見つめるだけ。

俺、なんでここに来たんだっけ。

ってなってしまって、ここにいる意味がわからなくなった。いても何もないし…と思って外に出ようか悩んでいれば、男の方が俺に気づいて「圭介、一緒にいる奴は?」と聞いて来た。場地さんは「あぁ、千冬だ」って俺の説明をしていたかと思えば、「あぁ、アイツからも聞いてるわ」と笑みを浮かべて俺を見て来たから、は?ってなった。



「千冬、圭介もそうだけど、名前のこともよろしくな」



ニシシと笑うこの人のこの言葉、普通に出会っていれば親しみのある笑顔なのに俺は素直に受け止められなくて、黒いモヤモヤが広がっていく。あぁ、本当に何もかも余裕そうで、実際余裕なんだろうなって考えることは全部悪い方向。ギュッと手に力を込めて握っていれば、「あれ、圭介?千冬?」とここにいるはずのない名前さんが現れて驚いた。


名前さんは大きな袋を持っていて、それを店の中のカウンターに乗せて、「しんいちろーくん、ここ置くよ〜。お代金はこれね」とレシートのようなものを渡す。見れば袋には名前さんのバイト先であるファミレスのロゴ。見た感じ、バイト先でやってる持ち帰りの弁当か何かのようだ、しかもサイズもでかいからバラエティーパックのやつかもしれない。


「いぬぴーたちと食べてね」
「サンキューな。じゃあ、ついでに飲み物買ってきてくれよ」


名前さんにそのお金を渡した上で、さらに追加でお金を渡し始めて、なんなら「圭介を荷物持ちで連れてけ」と言い出して、「ハァ?!」と場地さんの方から大声が上がった。


「メンテしてやるんだから、良いだろ。ねーちゃんの手伝いしてこい」


結局、場地さんは言いくるめられてしまって渋々着いていくことに。いやいや、何故こうなった。俺が残っても居心地悪いし、なんなら俺が一緒に着いていったほうが…とも思ったけど、多分今の俺には上手く話せる自信もない。結局、何も言い出すことができないまま、この店にはシンイチロウ…、くんと俺の2人きり。話題もある訳でもないし、どうすりゃ良いんだ…なんてぐるぐる考えてみるも答えは出ない。
そしたら、移動させた場地さんのゴキをいじりながら、シンイチロウくんが「アイツのこと、よろしくな」と呟いた。


「アイツ、名前さ、背伸びしたり頑張りすぎるから」


またこれだ。まるでマウント取られてるように聞こえるこの言葉。俺の平常心を奪う、余裕のある言い方。シンイチロウくんは何も悪くない、けどイラッとした俺は「アナタが傍にいてやればいいでしょ…」と返す。あぁ、明らかに余裕がありませんって言い方モロバレじゃん、クソかっこ悪りぃ。



「それは俺の役目じゃないし、アイツも望んでないから」



カチャカチャと金属がぶつかったり擦れたりする音が響く店内。あぁ、なんでこんな話してんだろ…、もうこれ以上喋ったらもっと嫌になりそうだった。そんな時、突然言われた言葉に俺は「は?」ってなる。



「名前さんと付き合ってるんじゃないんですか」
「ははっ、アイツは妹みたいなもんだよ」



名前も圭介も昔っからの付き合いだからな、俺はアイツらの兄ちゃんみたいなもんでアイツらは俺にとっての弟や妹みたいなもん、ただそれだけだ。


そう確かに言ったんだ。


あの日と同じ、名前さんがシンイチロウくんに送ってもらった時と同じ、今の俺にはシンイチロウくんの表情は見えない。けど、これを名前さんが知ったらどう思うのかな、って思った。名前さんには申し訳ないけど、ちょっとだけホッとした俺がいた。


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