千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

お祝い事は盛大に




俺はこの日名前さんに呼び出されていた。


「千冬〜!おねがいっ!」
「えっと、本当に俺でいいんですか?」
「うん、むしろ千冬がいいな」



両手を合わせて頭を下げる名前さんは俺に対して力強くお願いと訴えてくる。俺は別に断る理由もないけど、こういう名前さんからのお願いも頼られてるのがわかるから、嬉しさとちょっとしたむず痒さを感じる。


しかも、俺がいいって…。


嬉しい、まじかよ。


「はぁ…良いですよ」



内心は感情ぐちゃぐちゃ。むしろ、嬉しすぎて足が浮きだちそうなのを必死に堪えて、めちゃくちゃ堪えてやっと出した感情はため息に詰め込んで了承を伝える。名前さんはそれはもう嬉しそうに「ありがとう」と言ってくれて、俺はもうこれだけで満足だ。














というのが数日前のことで、



「だはははっ!!!」
「っおいテメェらふざけんなっ!!!!」



場所はいつもの神社。

呼び出された場地さんは大声で怒鳴り、マイキーくんたちは大声で笑い転げる。

場地さんが怒るのも仕方ない、だって場地さんは泡まみれだったから。




「場地、さいっこうだろ?」
「ざけんな!サイアクだっ!!!」
「こうも引っかかるなんて、サプライズ成功だな」



マイキーくんとドラケンくんは未だに笑ったまま、拳をぶつけ合う。場地さんはギリギリと歯を食いしばる音がしていて、今にも暴れないかヒヤヒヤしたけど、なんとか落ち着かせようとしているのがわかったのでとりあえず見守ることにした。



「だって場地、誕生日だよ?」
「全力でお祝いしねぇとな」
「んな祝い方があるかよ」



あの場地さんが何とか堪えていたのは場地さん自身が意味もなくこんな仕打ちを受けた訳ではないと理解していたから。みんな、場地さんの誕生日のために行ったサプライズ。




「本物のケーキだと三ツ谷怒るだろ」
「だから、ドンキで買ってきたんだよ」
「パイ投げセット」



場地さんが泡まみれの理由はこれだった。
場地さんの横には投げ当てられた後の紙皿が転がっている。



「おうおう、盛大にやられてんのな」
「圭介、見事やられてる…」
「なんで姉貴もいんだよぉっ」
「だって、名前が発案者だし」
「ふざけんじゃねぇ!」



マイキーくんたちの騒ぎで目立たないようにしていた三ツ谷くんと名前さんが姿を表す。案の定、場地さんは名前さんの登場に苦虫を潰したような表情を浮かべ、種明かしをすれば抑えていた感情が爆発する。



「サプライズは盛大にやらないとね」
「くっそッ」



多分これがドッキリ番組だったら、大成功ってプラカードを持ってるやつだ。場地さんの意識は完全に名前さんへと行っているが、場地さんを呼び出したのは俺なので俺も同罪だ。だけど、場地さんの意識は俺が呼び出したことよりもマイキーくんやドラケンくんにされたパイ投げよりも首謀者である名前さんの作戦に嵌ったことが悔しいらしい。めちゃくちゃ凄んでる。




「三ツ谷と一緒にケーキ作ったから食べよ」



だけど、名前さんはそんな場地さんの反応も気にすることないのは、さすが場地さんの姉だ。



「ちゃーんと圭介のプレゼントもあるんだよ」



場地さんのために作ったというホールケーキ。三ツ谷くんと一緒に作ったって言ってた、つまり二人だけで作ったのか…、ちょっとだけモヤモヤする気持ちを自分の中に押し込む。



「うっめぇな、このケーキ」
「マイキー食い過ぎ」
「甘さ控えめにしてるから、食べやすいでしょ」


ホールケーキ、本来なら切り分けて食べるもの。だけど、ここは神社で手元にあるのは紙皿と使い捨てのフォーク。つまり切り分けるものの準備を忘れていたため、各々フォークでケーキを突っつきながら食べることに。



「千冬、」
「場地さん、どうぞっす」


名前さんに声をかけられて、俺は準備していた紙袋を差し出した。



「…ペヤングじゃん!」



場地さんは紙袋の中を覗き込んで喜びの声をあげる。それもそのはず、紙袋の中にはたくさんのペヤング。いろいろ考えた、場地さんのお祝いに何をあげるか。結局、俺たちが行き着いたのは場地さんの好きなものをあげるということ。中学生である俺たちがあげられるものも限りがあったし、こうやって喜んでもらえるなら本望だ。



「…あ、コレなんだぁ?」
「ペヤングだけだと、あれかなって思って」
「良いデザインじゃん、千冬が選んでくれたのかぁ?」
「はいっす」
「ははっ、サンキューな!」



ペヤングの入った紙袋の中。場地さんは一つの箱に気づき取り出した。ラッピングされた小さな箱。場地さんは無造作に開けて中身を見るなり、俺の方を見る。その表情はペヤングの時よりも心なしか嬉しそうに見えたのは気のせいじゃないと嬉しい。


















「圭介、東卍結成の時に買ったお守りをずっと持ってるの」


名前さんに頼まれて買い出しに行った日のこと。
名前さんは色々なシルバーアクセサリーを目の前に眺めながら呟く。俺も名前さんの横に並んで、名前さんの声に耳を傾けてアクセサリーを眺めているフリをしている。いや、ちゃんと見てはいるが、身に入らない。


「ドラケンとか三ツ谷はピアスしてるけど、圭介はペンダントかな。このクロスどうだろう?」


名前さんは店内に並ぶアクセサリーの中から、一つのクロスを手に取った。



「場地さん、きっと似合いますよ」
「クロスの意味は災いから身を守る、だって」



喧嘩っ早い圭介にピッタリだね、と笑った名前さん。





場地さんには俺が選んだと言ったけど、実際選んだのは名前さん。場地さんへのプレゼントを一緒に買いに行った時のものだ。
名前さんは場地さんにあげても多分お互いに照れちゃうから、みんなからってことであげたいと言っていて。だから今も場地さんの反応を嬉しそうにはにかんで見ているだけ。




「場地さん、大切にしてくださいね」
「当たり前だろ」



よかったっすね、名前さん。
場地さん、おめでとうございますっ。



2021.11.03


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