未完成作品置場

■ 半田(稲妻)

わたしは何をやっても中途半端だ。勉強だってテスト前の休みにどれだけ集中したところでクラスの真ん中位置をキープ。運動は競技によってこなせたり、こなせなかったり。どちらにせよ大した活躍は出来ない。料理も美味しくもまずくもない普通の味にしかならない。取り立てて褒めるところもなければ、取り立てて貶すところもない。平凡にして凡庸。それが十四年付き合ってきたわたしであった。これからの人生に今更、期待も絶望もありはしない。きっとわたしに似て普通な人と普通に恋して、普通に結婚して、これまた普通な子供を産んで、そして普通に死ぬのだろう。最近はそれでも幸せ過ぎるのではないかと思い始めた。あまりにも普通すぎて誰も選んでくれない可能性だって十分ある。わたしは今日も、お世辞にも十人並みとしか言えない鏡越しの自分に、小さく溜息を零した。


「何悩んでるんだ?」


わたしにそう尋ねてくれたのは隣の席の風丸一郎太くん。珍しい名前に比例して、類い稀なる美貌を持つ男の子だ。彼の後頭部で揺れる艶やかな蒼穹と同じ色をした豊かな髪を見つめていると、また溜息が漏れた。俯くと顔の横に垂れてきたわたしの髪が視界に入る。日本人らしい典型的な、別にさらさらとかふわふわとか好意的な擬音も付け難い、普通な黒髪。もしこの色が風丸くんのような綺麗な青だったなら、何か変わっただろうか。そこまで思い至って、わたしは馬鹿かと気付く。あの色は風丸くんだから美しいのだ。わたしのような平々凡々な顔立ちには似合わない。むしろ目立つことで人に不快感を与える結果に成り兼ねない。何事もなく穏便な人生だけでもいいじゃないか。平凡だからこそ、誰も傷つけず、誰からも傷つけられずに生きてこれた。これ以上の幸せを望むなんて、不相応にも程がある。


「かざま、「おい!風丸!」


風丸くんには縁のない悩み事だよ。そう言おうとしたわたしの小さな声を遮ったのは半田くんだった。個性爆発のサッカー部に在籍しながら、その無個性さから「中途半田」と呼ばれているらしい。それでもわたしからしてみれば、全然地味じゃない。目はくりくりと大きいし、茶色の髪も日に透けると薄い金色になるのがとても綺麗。なにより彼には打ち込めるものがある。それだけでも半田くんはきらきらに輝いて見えた。何を隠そうわたしは彼に憧れを抱いている。彼の素晴らしさを周りが理解していないのが、とてももどかしく、同時に嬉しかった。


「半田くん、こんにちは」
「お、おう」
「いきなり叫んでどうしたんだ?」


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まさに中途半田

2010/03/12 19:00

■ サイ(鳴門)

中々に美しい娘だった。歳の頃は同じくらいだろう。腰まで届く射干玉の艶やかな髪を揺らし、陶器のような白い肌に嵌め込まれた珊瑚色の宝石をうっすらと細めた瞬間、世界が停止したかのような錯覚を覚える程度には。


「初めまして、サ「えー!こんなのがあたしの護衛なわけ?根暗そう!地味!もっと爽やかな人いなかったの?ほら、さっき擦れ違った…何だっけ、ラー?これじゃあ翼神竜だわ。そうだ、リー!あの人がよかったなあ!」


訂正、口を開かなければ、の話だ。女性特有の喧しい口調でまくし立てる彼女はやはり、どこにでもいる僕の苦手な女の一人だった。むしろそれよりも酷い。あんな濃い眉毛の野郎が爽やかだと?終始敵意丸出しで、何故僕なのかと四代目に食ってかかる。四代目は既にお疲れのご様子で、適当にあしらった。何なんだこの女。


「はぁ…しょーがないな。あんた、名前は?」


溜息を吐きたいのはこちらだし、先程の自己紹介を遮ったのはこの女だ。能天気な馬鹿女に対する苛立ちが募る。得意のポーカーフェイスも、会って数分で脆くも崩れさってしまいそうだ。口の端がぴくぴく痙攣しているのは自覚済みである。何とも面倒臭そうな忍務を押し付けられたものだ。それでも忍としての理性が僕を抑え、ぎりぎりの上辺だけの微笑みを浮かべた。とはいってもその辺りはプロと言うべきか、きっと同業者の中でもナルトやサクラたちにしか見抜けない作り笑いだった。


「サイです。今回は護衛を務めさせていただきます」
「…あんたって…まあ、いっか。あたし強いし、あんたの力は借りないだろうけど一応ちゃんと守ってよね」


女は、ぴしりと人差し指を僕の眉間に突き付ける。全く、あらゆる言動が腹の立つ女だ。ここまで他人を不愉快にさせることに長けている奴もそうはいないだろう。四代目は窓からただ遠くを見つめて「…頼んだぞ、サイ」とだけ呟いた。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
続かない

2010/03/10 21:10


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