あ、やばい、目が合ったと微妙につながってます。


「…佐助、来たぞ」


そう告げると同時に定位置に駆けてくる幼馴染、兼同僚に相変わらず溜息が出た。何度見ても同僚が夢中になっている人物はそこら辺にいる休日のサラリーマンのようなパッとしない男、何故いつも飄々としたこいつが姿を見ただけでこんなにも顔をニヤつかせているのか、きっと俺は理解する事はないだろう。

佐助の意中の相手が両手に袋を下げて帰れば何時の間にか時計の短針は下を向き始める。ふと透明の自動ドアの向こうを見れば宅配業の車が止まる。佐助のお楽しみの次は俺の番だ。


「ちわーっバサラ便でーす」

「あ、お疲れさまでーす」


軽く帽子を上げて薄緑の制服に身を包んでいるのはこの時間、店に預けられた荷物を取りにくる担当のドライバー。名前は桜田晋。俺は殆ど話した事はないが、初めてこのバイトに着いた時からずっと想っている、所謂「意中の人」。無論、めんどくさい事になるので佐助には言ってない。…言った所で信じない可能性の方が高そうだが。ましてや俺が生粋のゲイだ、などと告げれば佐助は恐らく「ありえない」と腹を抱えて笑うに違いない、想像したら少しイラっと来た。


「これお願いします」

「…三百八十円です」


休憩なのか、レジに出されたコーヒーと菓子パンを打ち出して値段を告げれば律儀に桜田は手渡しで金を渡す。この時わざと手に触れる様に貰うのは仕方ないだろう。誰だって好いている人物には触れたい物だ。

実のところ彼に会う機会はバイトだけではない。ある日家に届いた爺さんへの荷物を代わりに受けた時、配達が桜田だった時があった。それ以来俺は桜田が自宅のある地区の担当の曜日にわざと荷物が来る様にしている。何かの理由で彼が配達じゃない時もあるが、無事桜田だった日には万々歳。もはや彼に会う手段として届けられた荷物は開かれる事も無く、今や部屋の隅にダンボールに包まれたまま山積みになっている。好い加減処理しなくては邪魔になってきた。因みにこの事を気まぐれにもう一人の金髪の幼馴染に告げた事があるが、世間一般的にこれはストーカー紛いだそうだ。知ったこっちゃないが、純粋な恋愛感情故の行動をそんな風に言われるのは多少心外だった。



「晋さんこのパン食べた?新しいやつ」

「あっ食ってない、気になる」

「買っちゃいなよーお店に売り上げ貢献してくださいそんで美味しかったらおしえて!」

「え〜おじさん金欠なんだけどな〜」


桜田と良く話すおかげか仲良く無駄話をする佐助に若干の、否、だいぶイラ付きを覚えながらももう一度レジを通せばまた俺の掌と彼の指先が触れる。ああ、もうそろそろ桜田は次の仕事に行ってしまうだろう。次に荷物が届くのは一週間先、しかも最悪な事に今週はテストの為にバイトは入れてないので此処で会う事もない。最悪だ。テストなぞ滅びてしまえ。最初にテストなんて物を考えたのは誰だ、死んでしまえ。

五分にも満たない短い逢瀬。想いは一方通行、報われない。分かってはいても少し虚しいと分からない程度に息を吐けば財布をしまった桜田がこそりと呟いた。


「風魔くん、俺次から担当水曜日に変わったから」

「!」

「んじゃ、失礼しゃーす」

「はぁい、おつかれさまでーぇす」


ばっと顔を上げて桜田を見れば酷く上機嫌な様子で、見間違いで無ければ車に乗り込んだあとこちらに向かってウインクもついていた。言われた言葉の意味を理解するのに暫く呆けていたせいで佐助が心配そうに顔を覗き込んで来たが、意味をやっと理解すると、思わず頬が緩んで口がぐにゃりと弧を描く。なるほど、佐助があの客を見ている時の感情はこれか、まさか理解する日が来ようとは…とりあえず俺は影で携帯を取り出して、次に来る荷物の曜日変更メールを打った。



もしかして、これは、もしかして
(なかなかに脈があるのではないだろうか)


「(うわっ!小太郎が笑った所子供の時以来に見たきもちわるっ!!!!!!)」

「(……うるさいぞ猿)」

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