店内に響き渡る何処の系列だかわからないラジヲのBGM。そこいらのコンビニより少し狭いけど種類は多く綺麗に陳列された商品。そしてそれを物色する客、客、客。そしてそれを台を隔てたレジでのんびり待つ俺様と、同じくシフトの被っている風魔。定時のお弁当の搬入も終わって特にする事もなく、くあ、と欠伸をすれば隣のレジで風魔がつられて欠伸をする。


「恐ろしいほど暇だね…」

「……今日はあんまり客も入らん、見てるだけばかりだ」

「うへーせめて肉まんくらい買ってくんないかな、廃棄になっちゃう」


もう保温機に入れて何時間たったか分からない肉まんに目を向ければ「多少痛んでも食える」、だなんて風魔の店員あるまじき発言。…まぁどうせ食べんのは俺様じゃないし良いんだけどね、みんな買ってすぐ食べるから味もそんな変わらないし。


「……佐助、来たぞ」

「えっ まじ!?」


風魔の呼びかけに小走りで持ち場のレジへ駆ければ短い電子入店音と共に一人の客が入ってくる。

だるだるのシャツにくたびれたスウェットの下は財布でポケットが膨らんでいる。髪はぼさぼさで髭は朝から剃っちゃいないんだろう、無精髭が不揃いに背を伸ばしていた。


「い、いらっしゃいませー」


思わず声が震えたがお約束の台詞を言えば「うーい、いらっしゃいましたー」とケラケラ笑いながら一直線にお弁当の棚へと向かう。もう何度も繰り返される光景。常連の彼と、店員の俺様。


(ああやばい、かっこいい…!)

「…あれの何処が良いんだか未だに分からん…」


いつものように真剣にお弁当を選ぶあの人の横顔に、にやける口を手で覆えば小さく風魔が息を吐いた。風魔は見たこと無いんだろうけど、あの人は時々お仕事なのかかっちり黒のシャツに黒のネクタイ、黒のスーツを決め込んで、髪を後ろに流してる時がある。正直それは腰が砕ける程にかっこいい。冗談抜きで、かっこいい。それにあんなナリをしているがあの人の財布は有名ブランドのしかもレアな奴、雑誌でかなりお高く書かれていた一級品。きっとかなり良いお仕事をしてるんだろう。

俺様は普通に女の子が好きだったしゲイになんて一生なる事は無いだろうと思って居たが、俺様が名前も知らないあの常連に抱くこの感情は間違いなく性的欲求も含めた其れだ。最初はただ客の一人として景色の中で眺めているだけだったのにいつからこうなったかは覚えてない。でも一度好きだと認めてしまえば、恐ろしいほどに「自分は男もいけるクチだった」という答えはストンと穴に収まった。


「あ、これお願いしまー」

「は、はーいっ」


何時の間にか選び終わったのか、台の上にはどさっとカゴ一杯のお弁当やらカップやら。リーダーを手に取って一つ一つ値段が機械に打ち込まれて行く。その間目の前に立つ意中の相手にもう心臓はどっきどき、顔は下を向いて商品しか見れないしじわりじわりと頭に巻いたバンダナの下が汗をかく。沢山品物を買ってくれるのは長く相手出来るから嬉しいけれど、俺様の心臓が持ちそうにない。ああもう、俺様らしくない!


「全部で2073円です、」

「あ、さるとびくん」

「ふぁいっ!!!?」



あ、やばい、目があった
(琥珀色の瞳がただただ俺を射抜いてる)



(髪にごみ、ついてるよ)
(な、何で名前、)
(名札に、描いてあったから)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -