術式
高専内にある広い和室で五条とその生徒、苗字が向かい合っている。珍しく手の空いている恩師を相手に、稽古をつけてもらっている最中であった。苗字は肩で息をしている状態で、見かねた五条が一言声をかけた。

「そろそろ休憩しようか」

2人は楽な姿勢で座り込むと、五条の方から話題を切り出した。

「九州に行ってる間に、随分と成長したね。領域展開までできるようになったんだって?」
「はい。まだまだ未完成でしたけど」
「学生で領域展開を完成させたヤツなんて滅多にいないからね。今はそれで十分だよ。...それより、問題はここからだ。名前、宿儺と接触したでしょ」
「やっぱり、あれって夢じゃなかったんですね」
「任務後に悠仁が君の見舞いに行ったら、一瞬気を失っていたらしい。そこで宿儺の生得領域に連れ込まれたんじゃないかな。宿儺に何かされなかった?」
「確か、九尾狐と縁があったって言ってましたね。あと術式が未完成だから、修行に励めって言われました」
「何か普通に応援されてるね」
「これ、応援なんですかね」

苗字は首を傾げる。何にせよ厄介なモノに興味を持たれてしまったことには違いない。

「怪我が無くて何よりだけど、今後も宿儺と接触が無いとは言えないから気をつけてね」
「気をつけます」
「名前の術式は特殊だからね。多分宿儺の狙いはそこに漬け込むことだ。何があっても、呪いの言葉に惑わされるなよ」

五条の青い瞳が苗字を見つめる。普段の飄々とした彼からは想像できないほど、真剣な表情であった。苗字はしっかりと頷いた。


和室を後にした苗字は気分転換のついでに共有スペースへと向かった。そこには可愛い2年の後輩たちが勢揃いしていた。

「よう、名前。2日も寝てたらしいじゃねえか」
「真希ちゃん! 久しぶりだね」
「素直に心配してたって言えよなー」
「パンダは黙っとけ」
「おかか!」
「狗巻君ありがとう、私はもう大丈夫だよ。さっきまで五条先生に稽古つけてもらってたし」
「私ともやろうぜ。今から時間あるか?」
「もちろん! 狗巻君とパンダ君もどう?」
「しゃけしゃけ!」
「俺は審判役やりマース」
「よし、じゃあみんなで外行こ!」

2年生たちと一緒にグラウンドに出ると、そこには既に1年生がいた。学年の隔てなく、全員が巻き込まれ、最終的には訓練と称した素手の乱闘になった。


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