任務-3-
伏黒が残りの蠅頭を払っていた時、鳥居の向こうから感じていた呪力が途絶えた。彼は最後の蠅頭を祓うとすぐに駆け出した。

「...っ! 苗字先輩!」

力の抜けた身体を軽く揺すっても反応がないが、呼吸は一定だ。呪霊は跡形も残っていない。伏黒は安堵し、苗字の腕を自分の肩に回して立ち上がる。すると近くの茂みから泥だらけの釘崎と虎杖がやってきた。虎杖は男の子を背負っている。

「伏黒、無事にこっちも片付いた...って名前さん大丈夫か!?」
「呪霊は祓えたみたいね。何があったのよ」
「苗字先輩は呪力の使いすぎて寝てる。詳しいことは後で説明するから、まず伊地知さん呼ぶぞ」

手が塞がっている男子の代わりに釘崎が携帯を取り出す。数分後、心配した伊地知が慌てて車でやってきた。



_____積み上げられた骨の山。その上から和服の男が苗字を見下ろしている。虎杖とよく似ているが纏う空気がまるで違う。これが噂に聞いていた呪いの王か。圧倒的な呪力を放つその人物に苗字は足が竦んでいた。

「貴様、九尾狐の術式が使えるのか。名はなんという」
「ここ、は...?」
「まず俺の質問に答えろ」

鋭い目付きを向けられ、心臓を鷲掴みにされたような気持ちになる。ここは従順に、そして神経を逆撫でしないように振る舞うしかなさそうだ。

「...はい。苗字名前と申します」
「理解が早いな。小僧と違って言葉遣いも弁えている」
「アナタが両面宿儺...ですか」
「いかにも。大昔に九尾狐とは縁があったんでな。興味が湧いたが、貴様の術式はまだ未完成の様だ。精々修行に励むがいい」

男は口の端を吊り上げると、苗字に指を向ける。そこで彼女の意識は遠のいた。


「んー...」
「お、起きた!」
「名前さん起きたわよ。伏黒も早く来なさいって」
「起きたばっかなのに騒ぐなよオマエら...」
「あれ、任務は!?」
「名前さん、2日間も寝てたのよ」
「うっそ」

辺りを見ると高専の医務室であるとわかった。骨の山や宿儺の姿はどこにもない。それよりも任務のことだけが気がかりだ。苗字は任務についての説明を求めた。

「先輩が領域展開した後、俺が駆けつけた時にはもう呪霊は消えてました。助けた男の子は無事でしたが、祠に祀られていた呪物を持ち出していたみたいです。その辺は伊地知さんに頼んで処理してもらってます」
「...そっか、あの子が無事で良かったよ。祓ったとはいえ、迷惑かけてごめんね」
「いえ、俺の方こそ任せきりで...」
「伏黒が1番名前さんのこと心配してたんですよー」
「俺に報告書任せて自分だけ病室に行ったんだよコイツ」
「おい、報告書はちゃんと書いただろ」

やいのやいのと1年生たちが言い合う。賑やかだなあ、と同級生の少ない苗字は羨ましく思った。


- ナノ -