任務-2-
「釘崎、さっきのもっかい打ち込んで!」
「っしゃ、任せろ!」
____芻霊呪法「共鳴り」

分裂した呪霊の動きが止まる。その瞬間を見逃さなかった虎杖は呪力を込めた拳を振るった。

「おっしゃ貰ったァァッ」

呪霊の身体を虎杖の拳が貫く。しかし貫かれた穴から新しい頭が生えてきた。

「あガガガがッッイダイイタイたいイた」
「はっ!? マジかよ」

切り離さない限り、分裂して別個体にはならない様だが、それぞれの頭が蛇のように自由に蠢く。

「ゴぽッゴポぽッウヴェおヴェ」
「こいつダメージないんだけど!」
「離れて!」


釘崎の言葉に反応し、虎杖はすぐに距離をとる。なんと殴られた呪霊はさらに小さな呪霊を吐き出したのだ。二足歩行のそれは男の子目掛けて走り、抱えあげると背を向けた。

「虎杖、釘崎、あいつを逃がすな! 玉犬もついていけ!」
「ワォン」

2人と1匹が男の子を追う。一方、残された呪霊の塊はお互いを求めるように近づくと、境界をぐちゃぐちゃにしてひとつの個体と成った。大きさはさっきの倍だ。攻撃すればまた増えるのは安易に予想出来た。ただでさえ多く生えていた足と頭が合わさり、気味の悪い姿になったそれを見て苗字は言った。

「術式で一瞬動きを止めてくれる? そしたら領域使うから、ここから離れて」
「先輩1人で大丈夫ですか」
「大丈夫だよ」
「だけどっ...」
「まだ未完成だから間違って伏黒君を巻き込みたくないし。でも体が持たないと思うから、呪力感じなくなったら迎えに来て」
「...了解です」

苗字が尻尾を揺らし、冗談めいた様子で言うと、伏黒は肩を竦めた。先輩に丸投げするのは気が引けるが、大丈夫というのだから任せるしかない。伏黒は鵺を解くと、新たに影絵を作った。
____脱兎
影から何十匹もの兎が飛び出す。兎達は蠢く呪霊の足元を通り抜け、触手のような頭の動きを遮る。あっという間に辺り一面は兎だらけになった。苗字は可愛い技だね、という言葉が出そうになったが、さすがに飲み込んだ。戦闘が終わったらいじるか。
伏黒は相手の動きを見計らって術式を解くと、鳥居の向こうに駆け出しながら声を張り上げた。

「苗字先輩! あとは任せました!」
「おう! 先輩に任せなさい!」

____領域展開「狐鳴燐獄(こめいりんごく)

辺り一面に白い霧がたちこめる。周囲の鳥居や木は視界から消え、呪霊の輪郭だけが狐火に照らされている。呪霊は領域の主に飛びかかるが、炎の壁がそれを遮る。その鼻先が狐火に触れると、呪霊は一瞬にして青い炎に包まれた。断末魔の醜い叫び声をあげ、呪霊は灰すら残さず燃え尽きた。それを見届けた苗字は領域を解除する。いや、してしまったという方が正しい。呪力が尽きた彼女はその場に倒れ込む。九尾の姿を保てなくなり、元の少女の姿に戻った。

「すぐ死んじゃったな。相当疲れ、る、んだけど...ね」

彼女が意識を手放したその頃、虎杖の体内で、もうひとつの魂がその呪力に反応していた。

「ほう、この術式は...」


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