任務-1-
「今回の任務は山の中。準1級レベルの呪霊の周りに低級呪霊が群れているのが確認できました。そいつらを祓いながら、伏黒君の玉犬と苗字さんでこの匂いを辿って欲しい、というのが五条さんから伝言です」

伊地知の車から降りると、苗字にビニール袋が渡された。中を見ると子供服が1枚入っている。

「男の子が1人行方不明になっています。2日前、友達と山に遊んでる途中1人だけ姿を消したそうですが、呪霊が関わっていると見て間違いないでしょう」
「分かりました。終わったら連絡します」
「気をつけてください。では、帳を下ろします」

帳に隔たれ、辺りが黒に染まる。周りは木ばかりで道の舗装は綺麗とは言えない。そこで、苗字は両手を合わせて術式を使った。

「さすがに山の中で帳は暗いな。
___狐火」

青みを帯びた火の玉が現れて4人を囲んだが、熱は感じられない。不思議に思った釘崎が質問を投げかけた。

「わ、明るくなった。これ木とか燃えないの?」
「これは明かり用って感じ。普通の炎とはちょっと違うよ。呪力をもっと込めたら呪いを焼けるけどね」

簡単に説明したあと苗字は伏黒に声をかける。

「私も匂いを辿るために化けるから、伏黒君も玉犬だしてくれる?」
「はい」

返事と共に、黒い犬と九尾の狐が並ぶ。玉犬は目の前の相手が気になるようで、鼻を近づけている。突然化けた先輩を見て釘崎は口を開けたままだ。虎杖はその場にしゃがみ込むと、楽しそうに言った。

「俺そういう術式初めて見たんだけど! 名前さん、触っていい?」
「もちろん」
「わしゃしゃしゃしゃ」
「はは、くすぐったいよ」

虎杖が遠慮することなく撫で回していると、伏黒がひとつ咳払いした。虎杖が立ち上がると、獣2匹に差し出されたのは例のビニール袋。匂いを覚えたのを確認して、伏黒はそれを影の中にしまった。
先を歩く2匹の獣に続いて、3人はしばらく歩く。同じような景色が続くが、程なくして大きな鳥居の前にたどり着いた。苗字の声が1年生たちの足元から聞こえる。

「この鳥居の先に、男の子と呪霊がいるだろうね。私が準1級を仕留めるから、皆は周りの奴らをお願い。それと、男の子の生存が確認できたら救助を優先させて」
「おう」「了解です」「任せて」

それぞれの返事をし、一気に鳥居をくぐる。蠅頭が飛び回る奥に、巨体がいるのが見えた。丸みを帯びた真っ黒な身体にアンバランスな頭部がついている。目玉が大きく左右非対称で不気味な顔だ。その呪霊は、身体から生えた虫のような6本の足を小刻みに動かし、こちらを見ている。

「だぇ、ダレ、ダレダ...こレ...エサ、わたサなイ」

呪霊は尻尾のような部分を持ち上げる。よく見るとそこにはだらりと垂れ下がる小さな手足が。
その瞬間、苗字は地面を蹴って飛びかかった。正面突破だが速さには自信がある。そのまま呪霊の尻尾を噛みちぎり、虎杖に投げる。彼は即座に理解すると、男の子を受け止め呼吸を確認する。生きてはいるが弱りきっている。鳥居のそばに寝かせて周りの蠅頭を祓う。傍で落ちた尻尾が魚のように跳ねると、すかさず釘崎が金槌を構えた。

「気持ち悪ぃな! 」
___芻霊呪法「共鳴り」
「アがッッがガガガ」

本体が奇声をあげる。伏黒は周りで騒ぐ蠅頭を玉犬に食わながら鵺を出す。巨大呪霊が鵺の攻撃で麻痺した隙に、苗字は首に噛み付いた。

「いタイ、ぃだイ、イたぃぃいいイ」

呪霊の叫びに応えるように、釘を打ち込まれた尻尾が大きく跳ねて、断面からずるりと頭を生やした。本体と同じ顔の呪霊が釘崎に飛びかかるが、虎杖が胴体を殴って止める。

「大丈夫か」
「虎杖ありがと」
「分裂した方は虎杖君と野薔薇ちゃんでお願い! 伏黒君は私の援護をして欲しい!」

後輩の返事を確認して苗字は次の攻撃に備えた。


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