闇医者の独白

 私は特殊な家庭に生まれた。祖父はれっきとした医者で、何十年も前に小さな診療所を開いた。これが苗字診療所の始まりだ。開院当初はごく普通の診療所だったが、紆余曲折を経て怪しげな患者専門となったらしい。

 父は祖父の元で経験を積み、医師免許を持たずして医者と名乗るようになった。所謂、闇医者と呼ばれる存在だ。祖父と父の腕前は評判を呼び、苗字診療所は組の下請け会社から貿易商まで幅広い人脈を繋いでいった。

 父と母の出会いは聞いたことがない。そもそも父は母について多くは語らなかった。怪しげな仕事を知られてそれっきり、とだけ言われた。私自身、母の記憶はほとんど残っていない。代わりにあるのは物心ついた頃から診療所を手伝ってきた記憶だけだ。

 私も父同様に医師免許を持っていない。しかし祖父と父に仕込まれた技術と経験値は豊富にある。そのおかげで私も闇医者としてそこそこ名が売れた。太陽の下を堂々と歩ける職業ではないが、私はこの仕事にやりがいを感じているし、気に入っている。自分を必要としている患者は必ず存在するから。

 現在、苗字診療所は裏路地にある雑居ビルの一角にひっそりと構えている。一般客が紛れ込まないように看板を下ろし、受付は基本夜間のみ。といっても、喧嘩等で急患が運び込まれるのも珍しくないので昼間も病院で待機していることがほとんどだが。需要と供給の均衡がとれているとは言い難いものの、このような形態で長年経営してきた。

 怪我の治療や整形手術、時には薬の処方をすることも。私は暗がりに溶け込んで、今日も曰く付きの患者を治療する。

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