▼復讐劇
10/27 22:55(0

 幼馴染みの夏から電話がかかってきたのは、本当に突然だった。高校を卒業してかれこれニ年は連絡を取っていなかったはずだ。
「夏か。いきなりどうしたんだよ、久しぶりだな」と、俺は言うが、少し声が上擦った。
「あ、ああ。そうだな……。………冬、お前、何も変わったことはないか?」
 電話の向こうから返ってきた旧友の声はやけに様子が変だった。もっと昔は陽気な奴だった気がする。
「変わったこと? ……別に何も無いけど」俺は手元のメモ帳を見ながら、返事をした。
「そうか、ならいい。……いや、よくない。全然ダメだ……。どうしたらいいんだよ……ああ……」
「夏? おい、お前大丈夫か?」
 突然電話をかけてきたと思ったら、今度は急にブツブツと意味のわからないことをぼやき始める。俺が何度か名前を呼んでも反応がない。
 どうしたらいいか分からないのは俺の方だよ……。頼むから誰か助けてくれ、と俺は思う。
「夏、お前なんか変だぜ。なんかあったのか?」
「なんか……。あったな、ああ、なんかあったよホントに……」
 そして突然夏はチクショウ、と怒鳴るように言った。俺が電話を切ろうかと考えた瞬間、微かな声で夏が「あき……」と呟いた。
「あき?」俺はなんのことだかわからず、聞き返した。
「秋だよ、秋! 小学校のとき俺らがいじめてた……。覚えてないか!?」
 −−俺は夏の言葉を聞いてやっと秋のことを思い出す。
 俺と夏は幼い頃、二人である女の子をいじめていたのだ。名前を秋といい、小柄なおさげの女の子だった。いじめの始まりとか理由は覚えていない。たぶん大した理由でも無かったんだと思う。しかし、いじめ自体は本当に酷かった。物を隠すとか、机に落書きしたりとかスタンダードなやつは数えきれないほどした。もっと酷いことをしたこともある。クラスに秋を無視するように指示した次の日から、秋は学校に来なくなり学期末に転校していった。
 あれから何年もたって、俺はすっかり秋のことを忘れていた。
「秋がどうしたんだよ」俺は必死で平常を装いながら言った。メモ帳に流れ落ちた汗が跡をつけ、書かれた文字を滲ませる。少しでも気を緩めると声が震えそうなくらい俺は動揺していた。
「同じ中学だった春からこの前連絡があってさ……。あいつ、俺らの同級生だって名乗る女に俺とお前の住所教えちまったんだって。んで、その女が、身長の低い、おさげの女だったんだと」
 そして夏は「もしかしたら家にやって来て復讐されるかもしれない」と脅えた声で言った。
 俺は夏の話を聞いて今すぐにでも逃げ出したい気分にかられた。しかし、俺には「気にしすぎだよ」と言うことしか出来ない。
「どうせ他人の空似に決まってるよ。それに秋だってそんな小学校の頃と同じ髪形してるわけがないし、きっと別の女子だって」
 俺は夏を励ましながら、徐々に秋にしたいじめの数々を思い出していた。そしてそれが復讐に値する本当に酷いものだったことも……。
 俺が十分ほど大丈夫だと言い続けて、やっと夏が「……大丈夫、だよな」と言う。
「そうそう。あんま気にしすぎるとハゲるぜ?」俺は少し笑いながら言った。強張った笑みにしかならなかったが、声自体は明るくなった。
「ふざけんなよ! 俺めちゃくちゃ焦ってたんだからな!」と夏は昔のような明るい声で言った。
 夏はすっかり安心したようで、そこから少し互いの近況を話し、また何かあったら連絡するということで俺らは通話を切った。

 −−そして、俺は背後に立つ女に震える声で「ゆ、許してくれ」と言った。しかし首元に突きつけられたナイフは消えて無くなりはしない。走り書きで「ふつうをよそおえ」「ごまかせ」と書かれたメモ帳は手で握りしめられしわくちゃになってしまった。
「私が一体誰か、やっと思い出した? いじめたほうはその程度でしょうね。私、あなた達二人を絶対に許さないから……」突然家に現れ、後ろから俺の首に鋭いナイフを突きつけたおさげの女−−秋は冷たい声でそう言い、そして躊躇うことなくそのナイフを振りかざした。




書けましぇん(^p^)
恥ずかしいので本スレには載せませんでした……

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