ドラマティック・シネマ | ナノ







そして、今日は初めての当番日


私は期待に胸を高鳴らせていた。

彼に会えるかしら
彼を見れるかしら
彼は現れるかしら


放課後は部活だろうから、チャンスはこの昼休みだ。

適当な本を手に取りカウンターに座る。


(ドキドキしてお昼食べれなかった…)

あくまで平静を装ってページをめくる
内容は全く頭には入らないけど

無意味に何度も鏡で前髪を直してみる
代わり映えしない自分の顔にうんざりした時、鏡に人影が映った

私の真後ろ

本棚から見え隠れする

深い藍色の髪


(まさか…)

鏡越しじゃ顔を確認できないけど、彼がいるかもしれないと思うだけで振り返ることすら出来ない

どうしようどうしようどうしよう

予想を越えた動揺に襲われる


(本、借りるのかな。私のとこに来て欲しいけど来て欲しくない!その前に見間違いかもしれない!)


意を決して振り返った先

フランス文学が特集された本棚

直線距離にして約4m

数ヶ月間、おかしな程恋い焦がれた彼の姿があった



息の仕方を忘れたみたいな息苦しさを感じる
姿を見ただけでこうなるなら、言葉を交わせたなら
私は死んでしまうのではないだろうか


大きく息を吸って酸素を取り込んだ

少し、ほんの少し落ち着けたような気がした


その瞬間



「貸し出しお願いします。1ーD忍足で。」



頭上から声が降ってきた


反射的に顔を上げるとカウンターを挟んで30pの距離

間違いなく忍足 侑士が立っていた

想像よりも低く、落ち着いた声色

関西弁特有のイントネーション

初めて聞いた彼の声に心拍数は最高潮


「ぁ、はい…」

やっと絞り出した声は笑えちゃうほど情けないもので、震える指先でPCのキーボードを叩く


データベースから出てきた名前は間違いなく"忍足侑士"

画面上の名前ですら愛おしく感じてしまう。
ほんの少し、画面を見たまま呆けてしまった

「あ、しのびあしって書いて忍足ゆうんです。」

「そっ…そうなんですか!嫌だ、私ったら。ごめんなさい、有りました。」

本当は知ってる
画数まで知ってる


彼は貸し出し作業を終えた本を手にとり、おおきにと一言残して行った

ほんの数分のはずだったのに何時間もかかってしまったように感じる

視界から姿が見えなくなった瞬間、カウンターに崩れ落ちた
やっと息ができる気がする
思わぬ収穫もあった
主席番号は5番

(ハァ、なんかいい匂いがした気もする)

「七瀬さん、大丈夫?体調悪い?」

「いえ、大丈夫です。」

うつ伏せていると委員の先輩に心配されてしまった

体調は絶好調です。
来週の当番も任せてください。

まぁ、心はアレです


所謂、恋の病です



助かる見込みはありません。




(蓮二!大変!彼は声だけで人を瀕死に追いやることができるの!)
(日本語を話せ。)

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