白石 蔵ノ介 | ナノ







「好きです。」

「ありがとう」

俺の告白にはな先生はいつも「ありがとう」とだけ言うんや。

何度目かもわからんこのやり取りも今日で最後かもしれへん。
けど諦められん。


「ありがとうやないんです、俺が欲しぃんはそんなんやなくて!!」

「卒業、おめでとう。」

「ちゃうねん、先生!!本気ではな先生が、好きなんです!」

「テニス部のみんな待ってるんじゃない?」

「保健委員になったのだって先生とおりたいから!」

「晴れて良かったよね。絶好の卒業式日より!」

「ちゃんと聞いてや、先生!!」

背を向けたままのはな先生を細い肩を掴んで自分の方を向かせる。

「先生…、俺「白石君卒業おめでとう。あ、ボタン全部ないじゃない!さすがモテモテね。高校生になってもテニス続けるんでしょ?がんばってね。」

俺に喋らせまいと立て続けに言葉を紡ぐ先生。

やっぱり俺は先生の生徒以上にはなれへんの?

半年前俺と先生が出来てる噂が学校中に広まった。
原因はもちろん保健室に入り浸る俺のせいやろなやろな。

当然、指導室とか呼び出されたりするもんやと思っとった。
せやのに、俺にはなんにもない内に噂が消えた。
けど知ったんや


先生がいろんな所に頭下げて、俺の進路なんかに響かんようにしてくれてた事。
ほんまに付きおうとるわけでもない、ただ好きやゆうて困らせとるだけの俺を守るために……
ほんまガキやんか。


せやけどこの思いはどぉしようもないねん

「俺が欲しいのはそんな言葉やない。先生が欲しい。」

「…私、おばさんなのに物好きね。」

「はな先生しか見えへん…」

「ねぇ、白石君。私、"先生"なの。」

そんなん痛いほど知っとる。
どんなに背伸びしたって縮まらん俺らの差や。

「俺は明日から"生徒"やない。」

「"四天宝寺"の生徒でなくても、私にとっては可愛い"生徒"なのよ。一生、可愛い"生徒"」

そう言いきった先生は、いつもの"先生"の顔をしとった。
あの時と一緒の顔や。
噂が消えた真相を俺が問い詰めた時と…

「ほら、皆待ってるわよ?こんな所で油売ってないで行きなさい。」

「先生、これで最後やから聞いて欲しい。」

先生の生徒以上にはなれんのやったら、生徒でかまへん……

やから、可愛い"生徒"の俺のこと忘れんといて


「好きです」


「ありがとう」



"生徒""先生"と言い切った先生の声が震えとったのは気づかない振りをしよう

馴れたはずの保健室独特の匂いがツンとした

end


(一生忘れられないくらい大切な生徒だったよ)




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