・双子シリーズの奥村妹の話
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狭くて大所帯の修道院から広くてたった三人と一匹しかいないボロい寮へと引っ越ししてから数ヵ月が経った。雨が上がったばかりで虹がかかった空の下を片手に棒付き飴、もう片方に結局不要になってしまったピンクの傘を腕に掛け舐めながら歩いて帰る。

燐兄も雪兄もパパがやってた仕事、祓魔師になく為に一生懸命勉強しているが雪兄は大分前に祓魔師になっていたらしい。らしいと言うのは高校にあがった時に初めて聞いたからで、実際に祓魔師がどういった仕事をしているのかは私には分からない。ただ、たまに無表情で真っ黒なコートを着て出て雪兄の背中のポーチから見える黒い銃を見るとやっぱり雪兄は祓魔師なんだなあと思う。渋る雪兄に無理矢理聞いた所によるとパパも銃の扱いが上手かったらしい。見てみたかったなあ、きっと格好良くばんばーん!って撃っちゃうんだろうなあ。
そういう人のことを何て言うんだっけ。ガンガン?マガジン?マンガン?うーん…ま、いいか。

寮に帰ればクロが居るけど、クロと私はお喋り出来ないからちょっとつまらない。台所でにゃあにゃあ鳴くクロと夕飯の支度をしながら会話をしている燐兄が羨ましくてたまらない。私もクロとお喋りしたいのに!
そんなこんなで退屈なホームルームが終わると同時に学校を飛び出し、日が暮れるまでこの入り組んだ正十字学園周辺をあちこち探検するのが最近の日課となっていた。
石を重ねて作ったウェディングケーキに色んなものを張り付けている感じに不格好な形をした学園は、下から上がったいくにつれて建物に年季が入っていく。今私が歩いているのも苔の生えた石畳で石と石の間に溜まった水を柴犬の野良がぺろりぺろりと舐めて喉の渇きを潤す風景はとても穏やかに見える。
家と家の間にある日が当たらない石段に座って太陽の光を反射してきらきらと輝く水溜まりを見ていると、ざりりと砂利を踏みしめる音が聞こえて顔を上げてみると大きなリュックを背負った小太りの中年男性が私の事を熱心に見つめていた。

「お、お嬢ちゃん。こんな所で何してるのかなぁ」

「別に、何も」

「可愛いカチューシャだねぇ。お母さんに買ってもらったのかな?」

しまった、こいつも「こういう」奴だった。じりじりと迫ってくるおじさんに慌てて立ち上がると石段を一段飛ばしで登って逃げる。後ろからああ待ってえおじさん怖くないよぉ、なんて声が聞こえるも構わず足を動かす。小太りなら階段走りながら上るの辛そうだから簡単に逃げ切れる。確実にパンツは見えてしまっているだろうが、今日のパンツは人様に見られても恥ずかしくないものだから大丈夫。いや、駄目なのか?
石段を全て上りきり膝に手をついて息を整えながら私は中学の頃からの苦い思い出の数々を浮かべていく。元々童顔だった私に「俺ぁ娘を可愛くおめかししてやるのが夢だったんだよなぁ」と言ったパパから誕生日に貰ったカチューシャをつけ始めた頃から、私は異常な程に幼女を愛でる趣味のおじさん達に絡まれる事となる。
学校の帰り、買い出しの時、パパや燐兄達と出かけた時…外に出て一人になった途端に何処からか現れたおじさんに声を掛けられる。
ある時なんて強引に腕を掴まれて拐われそうになった所を青筋を浮かべたパパがドロップキックで追い払ってくれたっけ。
ちょっと怖かったけど日曜日の朝に兄二人がテレビを占領していた特撮ヒーローのようなパパはかっこよかった。それをもう見れないんだと思うと、少しだけ寂しい。

そうだ、今日は少し遠出をしてパパに会いに行こう!きっとパパも喜んでくれるに違いない。
くるりと振り返って上ってきた石段を眼下に収めながら空を見上げる。太陽はまだ高い所にいる、急いで諸々の用意をすれば燐兄達が帰って来る時間には間に合うだろう。
生まれて初めて燐兄に似ていると言われていた事に有り難みを感じる。雪兄が体力100なら燐兄は1000くらいあるもんね、私もきっと500位はあるはずだ。
やる事もなくふらふらしていただけの昨日までが嘘みたいに今はとても充実した気分で、歩みを始めた足を直ぐに早歩きになりそしてスキップになる。小さい水溜まりを蹴り上げればぱしゃりと飛散した水飛沫が太陽の光に反射して光の粒になってきらきらと舞った。




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