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「ねぇ」
漸く涙もおさまり、ひくりひくりとではあるものの泣き声も止まった時。男は口を開いた。
「俺と付き合って」
「・・・へ?」
突然の申し出に、俺は開いた口が塞がらなかった。
呆気にとられる俺に、男は尚も言い募る。
「君の過去を知って、守りたいと思った。君が不安になったら、弱さごと抱き締めたい。だから、俺が君を抱き締められる隣にいさせて」
「は・・・?」
「好きだ」
その言葉を噛み砕くのに、大分時を要した。
稍あって、その言葉を飲み込むと意味が分からずまた頭が混乱した。
だって、こんなめんどくさいやつをとまうしたら好きと思えるんだ?罰ゲームにしたってやりすぎだろ。
「罰ゲーム、は・・・?」
「さっきからよく意味が分からないんだけど、罰ゲームって?」
「じゃ、じゃあ・・・なんで、あそこに・・・」
「ああ。生徒会の仕事もひと段落したから休憩に来たんだよ。どうせ生徒会室にはあいつがいるから、ゆっくり出来ないだろうしね」
「生徒・・・?」
「あ、知らない?俺、副会長なんだ」
この学院の生徒会は人気投票で決められ、それは実質、顔立ちや家柄、成績とかで決められるものだ。
そんな俺とは人種の違う人間が、俺を好き?
そんなわけない。そんなことが、あっていいはずがない。
俺は、嫌われる人間で、だからこそ、こうして生き地獄を生きているのであって。
そんなことが・・・。
「確かに俺が惚れたのは君の弱さだけど。でも、その弱さから守りたいと思うよ。ずっと、君の隣で」
「う、そ・・・」
「嘘じゃない」
信じられなかった。
けれど、その双眸は真摯に俺を見つめていて、偽りのない本音であることを告げていた。
だからと言って、容易に信じられるわけでもなく。それに、今は本当でも、いつ面倒になってしまうか分からない。
だって、コイツも他人なんだから。
「好きだよ」
けれど。
「君を一生愛して、守っていきたい」
でも。
「君が苦しい時には、その苦しみごと抱き締めたい」
だけど。
「たとえ、その苦しみがなくなったとしても、君を抱き締めたい。君を守りたい」
言うのだ。この男は。
「俺が、面倒じゃ、ない・・・の、か?」
「何処が?」
俺の弱さも苦しみも、全て受け入れてくれる、と。
「君の苦しみも弱さも、君が優しいからだ」
言ってくれるのだ。
「好きだよ」
こんな俺でも、愛してくれる、と。
「だから、隣にいたい。君も守れるところに、抱きしめられるところに」
はじめて。他人であるはずなのに、この男は。
「付き合ってください」
面倒ごとしか持っていない俺なのに。
嘘だ、と頭が警鐘を鳴らすのに。
心が、信じてしまうのだ。
こんなことを言われたことがなくて。こんな目を向けられたことがなくて。
信じたい、と。
「めんどくさいよ」
「そうは思わないよ」
「いつまたさっきみたいになるか分からないよ」
「たとえ会議中でも蹴飛ばしてくるよ」
「お前を信じられなくなるよ」
「それでも隣にいたいんだ」
「後ろ指さされるかも」
「さしたやつには俺が報復して、高笑いしてやるよ。この子が俺の恋人だって、羨ましいだろうって」
「俺はまだ好きか分からない」
「俺が、好きなんだ」
ひとつだけ、嘘をついた。
きっと、俺はもうこの男を好きになって、離れて欲しくないと思い始めている。
今まで自分一人を守ることも重くてたまらなかったのに、守ってくれると言う。
寄り掛かって、抱きしめられたいと、全身が震える。
「きっと、俺を捨てても、まとわりつくよ」
「そうしたら、俺が報復される番だな、俺に」
優しさが初めてだったから。
守って欲しいから。
寄りかかれるから。
嫌わないでくれたから。
言い訳にするには、沢山ある。
けれど、言い訳出来ないくらい、この男を欲している。言い訳をしてでも欲しい。
「俺のこと、好き?」
嘘でもいい。なんて、言わない。
「好きだよ」
でも、この目は嘘をつかないから。
俺は、背中越しに男を顧みた。
穏やかに微笑む男が、俺を見ている。
「うん」
それが、何に対しての肯定か、男は一瞬判断がつかなかったようだが、すぐに察して、目を丸くして。
そして、笑った。










言葉通り、男は、それからずっと俺のことを愛し続けて行くことになる。
当時既に男に心が傾いていた俺は、すぐに男を愛し、愛されることを知るようになり、また愛されているか不安を覚えるようになる。
その度に、男が愛を囁き続けてくれて、俺は何度も愛を確かめることになる。
     
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