Bruniaceae―不変―
小学生の頃、みんなより一等背が高くて、筋肉質で、顔もゴツゴツしてて。みんなからは、「ゴリ」と呼ばれてバカにされていたヤツがいた。
かくいう俺もその中の一人だった。それどころか、主犯だった。
バカにして、詰って、蹴って、パシリ扱いして。果ては万引きさせたこともあった。
そんなんだから、ソイツは俺からだけでなく他のヤツにもイジメを受けて、一年足らずで転校した。
そして、俺はといえば、もう既に根性も性格もねじ曲がったクソガキだったので、些細なことと気にも留めず次のターゲットを見付けては同じことを繰り返した。
それから二十年たった今でも、俺の性格がマシになることなんてなく。寧ろ酷くなっていた。しかも、それを自覚しながら変わることもできないようなクソ野郎だ。
会社の社長の縁戚で入った使えないようなバカにとりいって、真面目一徹で通してきたような本物のエリートをバカにし、退職にまで追い込んだのはつい最近のこと。
後悔も何もなかった。
だって、やらなきゃやられる。俺はまだ職を失いたくないし、結婚を前提に付き合っている彼女だっている。負け犬になんてなりたくない。ごめんだ。
クズ野郎と罵られたって、たとえ追い込んだエリートが同期で仲の良かったヤツだったからって、心はちっとも痛まなかった。生き残るためだから仕方ない。
そんな言い訳を連ねていた頃。
支部からの栄転により、最早忘れていたヤツと再び顔を合わせることになったのは。
「真鍋一弥。二十八歳です。この度、支部から移動となりました。宜しくお願いします」
まるで、初夏の風のように爽やかな風を纏い、現れた男は以前とは見違えるような井出達で。
あんなにゴリラだった高身長も、筋肉質も、一人の大人になれば変わるものだ。キモくて仕方なかったのに、顔形もスッキリして。一見しただけで、好青年とわかる。
だが、俺が過去に蹴落としたうちの一人なんて覚えているはずもなく。
そして、これが地獄の幕開けとなることにも、俺は気付きようがなかった。気付けるはずもなかった。
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