【お互いの好きな所を10個言う】



 研磨と一緒にドアを出た先にはまた部屋があって、そこはコンクリート打ちっぱなしの壁に囲まれた無機質な部屋だった。壁には相変わらずテレビモニターのようなものがかけられている。
 それ以外は何にもない殺風景な部屋に、なんなんだここはと思いながらも研磨に話しかけようとすると、いつの間にか研磨はいなくなっていた。私はそれに動揺しながらも、キョロキョロと周りを見渡す。

 「……研磨??、……研磨ーー……。 」

 名前を呼んでも研磨からの返事はなかった。どこか別の場所に行ってしまったのだろうか。私は呆然としながらもそんな事を考える。
 しかしよくよく考えると、そもそも研磨が一個前の部屋に現れたのも突然だったから、突然いなくなるのはなんらおかしい事ではないんじゃないかとすら思えてきたので、私はとりあえず気にしない事にした。そうして私は改めて部屋の中を見渡す。

 「(……あれ、ていうかまた出入り口無くなってない? )」

 きょろきょろと辺りを見渡していると、今し方やってきたドアがなくなっている事に気がついた。いったいどういう仕組みなんだろう。急に消えたドアに不思議に思いながらも、出入り口があったところの壁をぺたぺた触ってみたものの、特に継ぎ目や不自然な凸凹も見つからなくて、さらに首を傾げた。──と、そうしているうちに、ドシャッと何かが落とされる音がする。

 「うん? 」
 「……ってて……なんだよ、ココ」

 音に驚いて、そちらを振り返ると、そこには見慣れた金髪メガネの長身の男が座り込んでいた。私は、今し方急に現れた月島に駆け寄りながらも話しかける。

 「月島?、大丈夫か?、怪我はないか? 」

 座り込む月島にそう話しかけると、月島はメガネの縁を掴みながらも、気怠そうに「なんなんですかココ」と言ってきた。私は月島に手を差し伸べながらも、経緯を話す。ここに来る前に音駒のセッターと会った事。そのセッターとミッションクリアして部屋から出れた事。ミッションクリアしないと出入り口が出ない事。研磨がいなくなった代わりに、今度は月島が現れた事。
 そんな事を話すと、月島はみるみる表情を曇らせて、私を観ながら「なんの冗談ですか」と言った。私はそんな月島に苦笑いを溢しながらも、「冗談というか、多分夢か妄想だと思う。そうじゃないと、折り合いがつかないから」とだけ返した。月島は私の表情に何かを察したのか、すごく大きな溜息をつきながら、私に問いかける。

 「……で、ミッションってなんなんですか」

 お、月島がやたらと前向きだ。
 そんな事を思いながらも、多分あのモニターに映されるよー、なんて言葉を返していると、モニターがブゥン、と音を立ててついた。ブルーバックに白文字で映された文字を、私と月島は黙読する。

 「「(……好きなところ10個お互い言う……?? )」」

 あからさまに嫌そうな顔をした月島に、私は先に言おうと思いながらも、少し考えてから指折り話し始めた。

 「……月島の声。 」
 「っ、 」
 「お前の声、すごく聞きやすくて良いなぁと思う。 」

 親指を内側に折り込みながら、続けて私はつぶやいた。
 
 「賢いところ。地頭がいいから話していて楽しいなと思うよ。あと、おしゃれなところ。マフラーとか、ヘッドフォンとか、良いもの使ってるなって思う。それから、色んな物事に対して細部にも気がつくところ。機微にきちんと気付ける事は、とても素敵な事だと思うよ。あとはもちろん、外見がいいところかな。 」

 「っ急に、なにを、 」

 「あとは、戦術的なプレーができるところ。月島のプレー、俺は好きだよ。それから、好きな音楽のセンスがいいところ。たまに音漏れしてるけど、お前の好きなバンド、割と俺も好きでさ。……あと、月島の字が綺麗なところ。こないだノート出してたろ。影山とか日向とかよりずっと綺麗で良いなと思った。あと、笑顔が綺麗なところ。きれいだなって、思う。 」

 ぶつぶつ、指折り呟きながらも、最後は月島の目を見つめて告げる。

 「……あとは……本当はバレーが、とても好きなところ、かな。 」

 そう言ってヘラリと笑ってみせると、月島は私の言葉に嫌そうに目を細めながらも、そっぽを向いてボソリとつぶやいた。

 「……最後は違うデショ。当てずっぽうは言わないで下さいよ。 」
 「でも、好きじゃなきゃ、普通バレー続けられないでしょ? 」
 「……見透かしてるみたいで嫌なんですけど。 」
 「ふはは、好きなところ言わなきゃ出られないのに、なんで嫌いなところ言うのさ。 」

 私がそう言ってケラケラと笑うと、月島はハァーーーーーと大きなため息をついたあとに、のんびりとした口調で話し始めた。

 「……話してて苦痛に感じないこと。……気遣いができるところ。……暑苦しくない。うるさくない。へらへら笑う顔。 」


 「……香水。臭くないし、清潔感があるから、良いと思います。……あと。サラッとハンドタオルとか出せるところ。……左利きなのに、いちいち苦労してるそぶりを見せないところ。 」


 「……あと、まぁ、案外負けず嫌いなところとかですかね。向上心があって、良いんじゃないんですか? 」

 月島はそういうと、ニコリと綺麗に愛想笑いをしてみせた。私は、その月島の綺麗な笑顔に釣られるようにして笑いながらも、言葉を返す。

 「……ふふ、そう言ってもらえて、うれしい。俺も月島に負けないように、がんばるね。 」

 月島の意趣返しにも似たようなその言葉に、取り合わずに素直に喜んでみせると、月島は気怠そうに空中を見ながら、もう一度溜息をついた。そんな事をしていると、ガチャリという音が鳴り響く。音に驚いてそちらを振り返ると、いつの間にかまたドアが現れていて、私は目を見開いた。月島は立ち上がって、ドアの方に向かって歩いて行く。
 私はそんな月島を目で追いながらも、月島の後をついて行った。月島はそんな私の様子に気付いて、私の頭を一度、くしゃりと撫でてからこう言った。


 「…………雲井センパイの頭、ふわふわしてて触り心地良いですよね。 」
 「へ、 」
 「それも良いところだと思います。 」

 そう言ってさっさと出て行った月島に、少しドキドキしながらも、私はドアノブを掴んで外に出た。




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