setting
彼が目を覚ますと、そこには見覚えのないだだっ広い場所が広がっていた。
打ちっぱなしのコンクリートの壁と床に、少しだけ薬品のような匂いのする空間。
しぱしぱと不思議そうに目を瞬かせる雲井の様子を見るに、恐らくここは彼が最後に目を閉じた場所ではないことは明らかだった。雲井は尚も不思議そうに周りを見渡す。
「(なんだこれ……夢か? )」
窓もドアもなく、部屋の明かりは天井に取り付けられた蛍光灯だけで、後は部屋の壁に壁掛けテレビがあるだけの、本当にがらんどうな部屋で、さてどうやってここから抜け出そうか、と思案している時に、それは起こった。
「はじめまして、こんにちは。ここは〇〇しないと出られない部屋です」
突然、壁にかけてあったテレビが点いたかと思うと、次いで真っ黒な画面と共に、そんな無機質な音声が流れた。彼は困惑しながらもそちらに意識を向ける。
テレビは相変わらず黒一色のままだったが、無機質な音声は彼の意識が自分に向く事を待つかのように二、三拍間を空けてから続きの言葉を喋り始めた。
「ここは〇〇しないと出られない部屋です」
「壁や床は金属を合成して作られた特殊な素材で出来ています。人の手では破壊する事など出来ません」
「現在ここに出入り口用の扉がないのは、あなたがまだその条件を達成していないからです。条件を達成する事が出来れば、やがて扉が現れて、晴れてここから出る事が可能になります」
「なので、ここから出たければ、私のいう通りの事を行ってくださいね」
いうだけ言って静かになったテレビに、呆然としながらも腕を組んでため息をつく。
到底信じられない出来事だったが、そもそもこの扉すらない殺風景な空間に自身が閉じ込められている事自体が奇妙だと感じていた為、雲井はテレビのいう通りの事をしないと出られないんだろうなぁとはなんとなくだが考えていた。雲井は嫌そうに顔を一度歪めたのちに、ポツリと呟く。
「……で?、その条件っていうのは一体なに? 」
そう呟くと、待ってましたと言わんばかりに空中にポッカリと大きな穴が空いた。そしてその穴から音を立てて何かが出てくる。彼はこの空間に投げ出されるようにして出て来たそれに、視線を向けた。