転入生がきて、引きずり回されて、マワされて、しかも好きな人が中にいて、なんかもう、いろいろ、疲れて。
何ヶ月も前に、俺はすっからかんな体を抱えたまま屋上からフライアウェイした。空に近づいたと思ったら遠退いていく感覚がどこか夢みたいで、心地好かった。

結局、死ねなかったけど、僅かばかり俺が浮いた代償に骨が折れた。ばっきばき。それをきに学校やめれて、なんか、もっとはやく飛んだらよかったなんて思った。

……俺の好きだった馬鹿は、どうしてるんだろう。気になったけど聞かなかった。



薬品のにおい、真っ白な部屋、緑の廊下。なにもかもお世話になりすぎた場所で、俺は自分のとった行動すら理解できなかった。
ジュースを買いに行った時、ロビーでちらりと聞こえた名前。好きだった馬鹿の名前と同じで驚いていた。そのままスルスル部屋番号が耳にはいってきた。俺の一階上。

それから、気がつけばエレベーターに乗ってて、気がつけば件の部屋の前。

冷静な俺の頭は「同姓同名のあかの他人だ」とか「会ってどうするんだ」とか、口喧しく注意するんだけど、どうしても抗えないナニカが俺の腕を動かして扉をあけた。

「…………おまえか」

ミイラ男。
そこまでいかないにしても、顔の三分の一をグルグル巻にして隻腕になった彼は、濁った瞳を俺にむけた。あの馬鹿だ。鼻がツンとした。涙をこらえている間に馬鹿は目を窓の外に向ける。

「お見舞い。あげる。」

存外、声は震えていなかった。
買ったまま握りしめていたジュースを渡し、俺は椅子に腰掛ける。
不思議と昔感じた恐怖はなかった。かつて恐怖を感じさせた部分が欠けていたからだろうか。
俺の中を無茶苦茶にいじったり、首をしめたり、骨を軋ませたり、間接外したりした手は片方無くなって、ずっと俺を見ていたよくわからないごちゃごちゃした狂った目は包帯で見えない。

「なにやってそんなんなったの」
「…………」

なんとなく聞いた。正直あまり興味もなかった。返ってきたのは予想通り無言で、俺は目を伏せる。

「おまえは、なんで俺に話し掛ける」
「……なんでだろうね」
「俺は、おまえを犯して、ズタボロにしたやつの一人だ」
「そうだね」
「怖くねぇの?」
「怖くねぇの」

なんでだろうね。再度繰り返せば、それっきり馬鹿は黙った。同じように俺も黙る。


「自殺未遂」

ぼそっと彼の唇が音をだした。
こちらを見て無感動に告げる。

「俺がこんなんなった理由」
「……」
「電車に中途半端に轢かれて、こうなった」
「……」
「死んで償うのも無理みたいだ」

誰に、とは聞かなかった。俺はただ「ばか」とだけ呟いて、目を閉じる。

「…………ばか」

再度呟けば、ゴメンと、残ったかれの腕が頬に触れた。

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