『後で』
『後で俺を役立たずと言うくらいなら、』
『今、俺を諦めろ。嫌え。近づくな。』

『……言うわけないでしょ、好きだよ、カズ』


なーんて言った元恋人が浮気した。
挙げ句に俺をフってそいつと付き合いだした。
目の前でチューまでかましてくれやがった。
「カズよりこいつの方が役に立つから」なんて、言葉を残して。




「っんのクソボケがァアアア!」

屋上のフェンスを蹴りつけ叫ぶ。ふーふー口から漏れる荒い息をそのままに、ひたすらフェンスを蹴りつづけた。

「さんざん、人に、股、開かせ、といて、フるとは、どういう、了見だ!! あ゙ぁ!?」

へこんでいく金網をねめつけ、ひたすら蹴りを入れる。

「あー、腹立つ腹立つ腹立つ!」


ガシャガシャ鳴る音にさえ腹がたった。むかつくむかつくむかつくむかつく!



「……るせぇ」
「あ゙!? 知るかボケェ! 俺は今傷心抱えてやさぐれてんだよ空気読んで出てけ!」
「無茶苦茶じゃねーの……ところで今何時何分だ」
「あ゙ー? 3時16分……」


腕に巻いた時計を見て、じわり、目頭が熱くなった。そういえばこれ、あのクソから貰ったやつじゃねぇか。

「………」

無言で腕からそれを外し、地面に落として踵で踏み付ける。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

「あのくそぼけほんと死ね不能になって死ね今すぐ死ね」

ガスガスガスガス思い出の品とやらを踏み付ける。しまいにパリンと音がして、それでようやく俺は足を止めた。


「……荒れてんな、お前」
「あったり前だボケ! 今まで受け身で我慢してたのにフラれてんだぞこちとら! セックスはいちいちねちっこいし何回も何回も中出ししやがってマジ死ね性病かかれもげろ」

後ろからする声に振り向かずに返してまたフェンスを蹴る。
すっかりボコボコになったそれに舌打ちを零して振り返れば、どでかい図体があった。


「……あ? 番長じゃん」
「総長と言え。お前見た目真面目のくせに中身雑だな」
「雑ってどういう意味だコラ」
「そのまんま」
「あーっそ」

ふう、と一息ついてもう一度時計を踏む。ペキペキ細かく割れる音がしたのでそりゃあもう無惨に砕けたことだろう。ハッ。ざまあみろ。

「で、学校一の不良様がこんな時間に何してんの」
「サボって寝てたらこれだ」
「あー、マジだ寝癖ついてら」

腕を伸ばし寝癖をなでつける。しかしピョンと跳ねたそれに俺は吹き出した。

「やべっ、番長の寝癖なおんね……っ! ピョンピョンしやがる」
「楽しそうだな」
「あんたのその面に寝癖似合わねぇんだもんよ……!! ひーやばい腹痛い」
「お前な」
「あーやばいやばい涙出てきた。な、な、マジックペンでヒゲ書かせてくんねぇ?」
「ぶん殴るぞ」

既に殴ってんじゃねーか。
頭を襲った衝撃に星を飛ばせば、呆れた目で番長さんはこっちを見た。なんだっての。

「お前変わってんな」
「変わってねぇよ」
「仮にも不良のトップ見て大爆笑するやつのどこが変わってないんだよ」
「えっ、仮なの?」
「いや、ちゃんとトップだが」

はぁ、とため息をついて番長は俺をみやった。なんだよ。と聞けばボリボリ頭をかいて、こちらをじっとみる。

「……なんだよ。」
「いや、お前名前は?」
「山中和也」
「そうか、カズ。それ貰っていいか?」

いきなりニックネームかよ。とぼやきながら番長さんの言ったそれを見る。
ぐちゃぐちゃになった時計。

それを鼻で笑い飛ばし「いーよ」と笑った。
それに番長さんは笑い返して、時計を拾う。ぐちゃぐちゃだ、と呟いたのでそっと目をそらし、わざとらしく口笛を吹いた。

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