決して毎日ではない。
課題も食事も読書も全て飽きるくらいまでやってそれでも時間が余った時に、俺はふらりとあの馬鹿の部屋に行った。
行って、ぽつりぽつり話して、時には無言のままテレビを見てしばらくしたら帰る。たったそれだけの時間。
それは酷く甘くて、美しく、はかなく、そして自身の馬鹿さが露呈している時間に思えた。


「おじゃまします」

ノックをしても返事がなく、断りをいれてから戸をあける。部屋はがらんとしている。つまり誰もいない。退院はまだ先だと小耳に挟んでいたから、検診だろうか。だいぶよくなった身体を動かしてベッドの傍らの椅子に腰掛ける。
あんなことがあっても馬鹿に会えるのには多分いくつか理由があるのだろう。俺の内面も理由だが、何より、今の馬鹿は俺が好きだった頃の目と同じ目で俺を見てくれる。怖くない。
目を閉じて、馬鹿を思い浮かべる。あれから、壊れ物を触るみたいに俺に接し、するりと頬を撫でては首筋へと手をあてる。生きているのを確認するかのように行われる行為は、あの時とは全く違う目によって見守られていた。

するり、ベッドシーツへと手を伸ばす。触ったそれにはぬくもりなどなくて、置いた指によってシワができる。手を遠くへ遠くへと動かすうちに上半身がベッドの上へと乗った。ふとにおう汗のにおい。なんとなしに鼻をシーツへとおしつけ、スンスン息を吸う。妙に胸が満たされたが同時に少し気恥ずかしくなった。
ずりずり枕のある方向へ移動し、下半身もベッドへとあげる。何をやっているんだろうか俺は。ぼんやりと扉を眺め、シーツへと視線を落とす。白い。布団をひっつかんで頭まで被る。においでいっぱいになって、きゅうっと胸がしまるのとともに自分の変態じみた行動にかなり焦った。ううん自分がわからん。
混乱を落ち着けるように目をつむり呼吸を規則的にする。窓から差し込むやわらかな日差しのせいか、そもそもベッドだからか、急速に眠気が頭に広がった。まずい、ベッドから降りなければ。そう思うのに、どんどん、瞼が。






「なにしてんだ」
「……ぁ、ん……む……?」
「起きろ」

ベッドの端に腰かけた馬鹿が俺を見下ろす。寝ぼけた頭は現状の理解を拒んで、すりすりと馬鹿にすり寄った。ため息をついて馬鹿は俺の髪を、頬を、輪郭を撫ぜる。

「ほんと、お前はばかだよ……」
「んー……」
「なあ……まだ、まだ、いいよな……」

腕をとられ掌に軽く唇を押し付けられる。夢、だろうか。妙にしっくりきたその考えについ笑ってしまう。ああ、夢かもしれないな、こんな、スキナヤツにこうしてまた触れてもらえて、優しくされて。

「ずっと、いいよ。ずっと、いてよ」

夢だったら覚めてしまうのだろうか。ずっと続けばいいのにと思いながら浮かべた笑みは、妙な泣き笑いになってしまった。

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