つい先刻下された親衛隊解散命令。
きっと彼は、僕達が制裁をやっていないだなんて知らないし、信じてもくれないだろう。僕達が転入生と彼の恋路を見守ろうと決めていたのも、信じてはくれないのだろう。
いつかは命令が下されるものだと分かっていた。分かってはいたが、それでも見切りをつけられたのは辛くて、辛くて。
泣かないようにしながら、僕は笑ってそれを受け入れた。


「っふ……ひっ、ぅく、この、いけさまっ、こぉのぃけっ、さまぁっ、ひん……は、ひぅ……」

校舎裏にうずくまり涙を流す。決壊した涙腺は未だ修復されなくて、我慢した分ぼろぼろと雫がこぼれた。シャツとズボンが肌に張り付くのが気持ち悪い。

「うっ、……ひぁっ、……き、れした、すきっ……で、したぁっ……こ、のっけさっ……!」

誰もいないから、もう聞き入れられもしないから、自分の中から捨てるように言葉をはきだす。苦しい、辛い、ツライ。

「……なぁ」
「っ!?」

背にしていた校舎から――正しくは僕の頭の上にある窓から声がかかる。びっくりして泣き腫らした顔のまま後ろを向けば、僕らがいつも平凡と蔑むような顔があった。キッと睨みつける。

「このへん、発情期のゴリラ共がいる危険区域だぞ。あんた、さっきから見られてるの気づいてる?」
「え、……ひっ!!」

言われ、あたりを見渡せばそこにかしこに生徒が見える。言われたからかもしれないが、こっちを見られているような気がして怖い。

「あんたこっから入れる?」
「む、むり、届かない」

示された窓は僕には高い位置にある。ため息を漏らした平凡は窓を乗り越え僕の横に降り、しゃがんだ。

「……踏み台にしろってこと?」
「馬鹿か。肩車だ」
「肩車ってなに」
「…………もういい、踏み台にしろ」

質問に答えないまま本格的に土台の体制になったので、遠慮なく踏み窓から中にはいる。次いで平凡も部屋に入った。

「靴は脱いで。後は好きにしろ」

そういって平凡はどさりとソファーに腰を下ろし、テレビ画面の方を向く。僕になんか見向きもしない平凡に少し腹をたてつつ、室内をぐるりと見渡す。

この校舎はたしか部室棟だからきっとここは部室だろう。部室にはテレビ、ソファ、……冷蔵庫に食器棚、テレビでしか見たことのないゲーム機。
誰がどう見たって部室でないこの部屋。部屋を出てプレートを仰ぎ見る。文字は掠れて読めなかった。

「ここって、部室だよね?」
「部室棟に部室以外あるわけないだろ」

素直に肯定しない平凡に青筋がたつ。

「何部?」
「古今東西娯楽研究部」
「…………」
「略して娯楽研」
「…………それ、何をする部活なわけ?」
「古今東西の遊びを実際に体験し解析することで次世代の娯楽を構想する部活」

ちらりとテレビ画面を見れば、悍ましい見た目のゾンビが変な服装をしたオッサンに内臓を抜かれいて……。

「な、なんてものしてるのっ!?」
「エログロ込み込みゾンビバスターゲーム」
「なななななんで、規制、ヒイイィィィッ!!」
「……うるさい。アメリカのゲームだからだろ」

ブチリと頭をひきちぎられ膝をつくゾンビ。怖くて気持ち悪くて思わず平凡に抱き着いた。上から馬鹿にしたような笑い声がする。

「ビビりすぎ」
「うっうううううるさい!平凡のくせに!!」
「あーはいはい。悪ぅございましたねぇ平凡でー。つか平凡平凡言うなら放してくんない?」
「うー、うーっ!」

今度はドアップでゾンビがうつる。放すなんて、無理。
そんな僕を見て平凡はため息をつき、口元でなにかぼそりと呟いた。内容は聞き取れない。

「何か言った?」
「別に?」

いつの間にか涙は引っ込んでいたがしかし、ゾンビのせいで冷や汗が止まらない。
ひぃひぃ叫び、その度に平凡に笑われる。冷蔵庫から飲み物を渡され、飲んで、騒いで、時間がたった。


「……そろそろ部室閉めたいんだけど」
「……げ、ゲーム止めてからいいなよ」

もう終わる。そう言って平凡はコントローラーを置き、ソファから身体をおこす。引きこもっていそうな見た目に反し筋肉のついた腕がカッターシャツに仕舞われていく。
カチャンと鍵が落ちる。くるりと振り返った平凡が口を開いた。

「お疲れ様ー」
「おつかれ、さま……ねぇ」
「なに?」
「あ、あー、明日、も来て、……いい?」

平凡は歩きだし、僕は追いかけて横に並ぶ。平凡の目が僕に向けられた。

「好きにすれば? なんならゲームする?」
「……ゾンビは嫌」
「ちゃんと初心者向け用意してやる」

フッと笑った平凡の顔が、妙に頭に残った。




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