separation

「いつまで寝ているつもりだい、君は。」

クジャの声が聞こえたような気がする。ぼんやりとした意識の私は身を捩らせ、眠気にあらかうことなく再び眠りにつこうとするが、掛け布団を剥がれ、素肌に触れる冷たい空気に観念して重たい瞼を薄く開いた。視界に映るは呆れたように私を見下ろすクジャ。まるで母親のようだ。といっても孤児である私は母親というものを知らないのだが。

「…寒い。」
「わざと寒くなるようにしてるんだ。当たり前だよ。」
「…眠い。」
「寝させない。」
「ぅん…っん!?」

掛け布団を掛けようとする私の手から、阻止せんとばかりにクジャは、それをもぎ取ろうと引っ張る。諦めて目を閉じれば唇に何か生暖かいものが触れる。驚き、咄嗟に目を見開けば中性的な整った彼の顔が間近に迫っていた。

「目は覚めたかい?」

柔らかい微笑の裏にはちょっとした悪意のようなものが見え隠れしている。ベッドに腰掛け、上半身だけ私に覆いかぶさるようなこの体勢も恐らくは故意。現に、私は彼の思惑通り逃げようとするも身動きが取れず、眼前で全てを見透かし余裕に浸っている彼を見つめることしかできない。せめて、この距離感をどうにかしたくて、両の手でクジャの身体を押し返そうとすれば、顔を挟むように両手首をシーツに押し付けられた。頬に彼の長い銀髪がかかり、少しむず痒い。

「起きるから…」
「そのままでいい。」
「でも着替えたりとかしなきゃ…」
「もうすぐ出かけるからいいよ。時間がもったいない。」
「出かけるの?」
「ああ、僕だけね。一週間くらいここを空ける。だから君に会っておきたくてね。じゃなきゃぐっすり眠ってる君をわざわざ起こしたりなんてしないよ。」

この体勢だと会話がどうであれどことなく緊張してしまう。いつもよりクジャが色っぽく見えるような気もするし、何より、男っぽさというのだろうか、そのようなものを感じるのだ。いくら彼が女性のように美しいとはいえ、体格はやはり男性であり、組み敷かれたこの状態はそれを強く意識させる。それはそうと、一週間といっただろうか。クジャがここを空けるのは。普段からちらほら出かけてはいるのだが、今までは長くて二日といったところだった。今回はいつになく長い。何かあるのだろうか。その何かというのは、到底私にはわかり得ないが、私の心中は一つの不安要素でいっぱいだった。

「無事に戻ってくる?」
「…!」
「ねえ、ちゃんと戻ってきてくれるの?また一緒にお茶飲める?もう会えなくなるのは嫌。いなくなっちゃやだ。」

自分でも驚くほどに言葉が溢れる。クジャはふと不意をつかれたような表情を浮かべるがすぐにこやかなものへと戻った。

「心配してくれてるのかい?」
「…!」

腕の拘束を解き、彼は私の頬を撫でる。その目はいとおしげでいつになく優しかったように思う。腕は自由になったが、私にはもう抵抗しようなどという気はなかった。

「大丈夫だよ。必ず戻ってくる。」
「絶対だよ。」
「うん、約束するよ。」

真っ直ぐに目を見て紡がれた言葉に少し安堵する。そして、どちらからというわけでもなく唇が重なる。お互いの存在を確認するかのように、幾度も唇をついばみ、幾度も舌を絡める。無我夢中だった。

長い口付けが終わると彼は私の部屋を出る。その後すぐ、私は涙を溢した。待つことしかできない。わかってはいるけれど、身体に残る彼の体温を糧に、まだ先ほどの余韻に浸っていたかった。








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