土曜日の朝
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翌朝土曜日、午前八時過ぎ。今日は彼もわたしも休日のため遅めの起床だ。リビングへ向かうと、まだ彼はそこにいた。
「志乃くん」
声を掛けるが返事はない。一度眉間にしわを寄せ寝返りを打つと、再び眠りについてしまった。おそらく、しばらくは起きないだろう。
二人分の朝食を作りお茶を飲みながら、九時を過ぎたら起こそうと考え、彼の目覚めを待っていた。
十五分ほど経ったころ、ようやく目覚めた彼は起き上がると同時にとても大きなあくびをした。その一部始終を見つめるわたしの視線に気が付いた彼は、眠そうに目を擦りながら掠れた声で言う。
「……おはよ」
その様子に毎朝笑みが零れてしまう。何度見ても慣れない。普段の彼とは違い、まなざしも声も優しすぎる。そんな彼を見るのがわたしにとって幸せな瞬間でもあった。
再びキッチンへ戻り、コーヒーを淹れる。朝食のワンプレートと淹れたてのコーヒーをトレイに乗せテーブルへ運ぶと、彼はソファから転がるように降り、床に胡坐をかいた。
「いただきます……」
彼はどんなときも必ず食事前後のあいさつは欠かさない。だらしない私生活を送っているようで、几帳面な部分もあって、掴みどころのない不思議な人だと感じる。そんな様子を見ながらわたしも彼の向かいに座り、朝食を摂った。
眠そうに目尻を下げたままリズムよくわたしの作った朝食を食べる彼を見て、とても愛しく思う。
この時ばかりは、彼のなかでのわたしの立ち位置など、わたしの一方通行な想いなど、どうでもよいとさえ思うのだった。
朝食を摂り終えると彼は自分のプレートをキッチンのシンクへ持っていき、食器を洗い始める。特に決まりがあったわけではないが、食後の食器洗いは彼の仕事となっていた。わたしの分までそうさせるのはなんだか申し訳ない気もするが、きっとこのほうが上手くバランスが取れているのだと思う。
飲みかけのコーヒーを少しずつ啜っているとき、食器洗いを終えた彼が、どかっとわたしの隣に腰かけた。
「今日、なんか予定ある?」
彼が突然そんなことを聞くものだから、驚き交じりに振り返ると、彼はこちらを見ずに続けた。
「買い物、付き合って欲しいんだけど」
「いいよ。どこに行くの?」
「まあ、ちょっと、その辺いろいろ回ろうかなぁ、とか……」
歯切れの悪い答えに疑問を持ちながら、すぐ出るという彼の言葉に合わせ、慌ててコーヒーを飲み干し準備を始めた。彼はさっさと準備を済ませると、先に車に乗るといって早々に出てしまった。つられてバタバタと準備をし、軽いメイクを施すわたし。もっと早く言ってくれれば、なんて愚痴を零しながらも、初めての二人揃っての外出に胸が弾む。
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