出会う
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数年が経ったある日のこと、おれは街中で存在するはずのない彼女の姿を見掛けた。
彼女は不動産の掲示板を睨みつけては、溜め息をついていた。おれはその様子をしばらくの間眺めていた。
本当に彼女が生き返ったのかと疑ってしまうほどに、その人は彼女に似ていた。
あと少し様子を見て、立ち去らないようなら声を掛けてみよう。
そう思った瞬間、おれの目の前にあいつが現れた。この数年間、憎み、妬み、恨み続けたあいつが。
目の前のそいつは意図も容易く彼女に声を掛けると、親しげに会話を交わし、彼女と共に街の中へと消えていった。
薄れかけていた憎悪が再び溢れ出した。
しばらくして、街中で見かけた彼女は柊木の親戚の子だということを知った。
思い出の彼女の生き写しのような容姿であることも、その事実を知り納得できた。
そして彼女の名前や住居、通う学校など様々な情報をあらゆる手段で手に入れた。
二人の様子を見ているうちに、あいつがその子へ想いを寄せているということは手に取る様に分かった。
心の中に、黒く濁った感情が渦巻いていく。
一年以上の時間を費やし今日のための計画を練った。
そして今日、実行に移した。
土砂降りの雨の中、学校の向かいの公民館内部にある小さな図書コーナーで彼女が姿を現すのを待っていた。
雨が弱まった頃ようやく姿を現した彼女は、何故かおれの妹と並んで歩いていた。
舌打ちをひとつ漏らしたが、その後少し距離を置いて二人の後を追った。
二人は途中、外れにある古民家の喫茶店へと姿を消した。
怪しまれてはいけない。姿を見られてはいけない。存在を悟られてはいけない。
おれはすぐに近所のコンビニに入店し、二人が店を出るのを待った。
しばらくして出てきた彼女たちは、その足でまっすぐ駅方面へ向かって行った。
再び距離を置いて二人の後を追う。
彼女は妹を見送った後、徒歩で帰宅ルートへ入った。
自然と笑みが零れた。
神様はおれに味方をしてくれるらしい。
駅から彼女の帰るマンションまでは人通りの少ない裏路地を通らなければならなかった。
何度も通い、綿密に立てた計画。
計画通りに行けば、裏路地に入って最後の角を曲がる前、あの場所なら……。
思惑通り彼女は裏路地へ姿を消した。少しずつ距離を詰めていく。
こんなにも上手く事が運ぶといっそ怖いくらいだと高揚する気持ちを抑えながら、彼女へ一歩、また一歩と近づいて行った。
途中、気配に気づいた彼女がこちらを振り返ったが、道が暗く入り組んでいたこともあり、物陰に隠れればこちらの姿は見えなかった。
そして最終コーナー、一歩手前。
彼女は角を曲がる直前に、小さく安堵の溜め息を漏らした。その様子に自身の口角が上がるのを感じた。
おれは右手に持っていたスタンガンを彼女の首元に押し当てた。
パチパチと何かが弾けるような音の後、彼女の身体は大きく傾きアスファルトに叩き付けられた。
すぐさまスタンガンをポケットに押し込むと彼女を抱き上げ、マンションのすぐ傍のコインパーキングに停めておいた車で町はずれのホテルへと向かった。
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