すれ違い




最近気づいた事がある。僕は親友のことが、好きだ。

“好き”

友情なのか愛情なのか、はっきりとした感情はまだ分からない。それでも、傍に居て欲しいと思う。誰かに取られたくないと思う。君の一番が僕であればと思う。

親友はいつも僕の傍に居てくれる。同情心か、僕に気を使っているのか。本当のところは何も知らない。

それでも、誰よりも長い時間一緒に居る。

誰よりも会話をすることも多く、休日に遊ぶ事だってある。しかし僕は、親友に冗談でも好きだと言われたことも、スキンシップをとることも、一度もなかった。

僕と一緒にいる間も親友は別の友人を見つける度に飛びついては、一歩間違えれば勘違いされても仕方のない、歯の浮くようなセリフを平気で口走る。

そして楽しそうに会話を終え、その場を数歩離れれば、ふと本音を溢すのだ。



「あー、面倒臭い」



僕は親友のそんな部分が、苦手で堪らなかった。きっと相手は親友がそんな事を平気で言っているだなんて、夢にも思っては居ないだろう。

僕もきっと、親友を知らなければ、こんな事を考えることは無かった。親友に怯えることも無かっただろう。

自分の知らない場所で、思いもよらぬことを言われている。そう考えると、何故だか少し心が傷んだ。

親友の一番が僕であれば、そんな事を考えずに済むのに、好きだと言われたことも無い僕が、一番な訳が無い。

思いながらも何処かで期待している自分も感じていた。親友が優しく接するのも、本音を打ち明けるのも、彼女の嘘を見抜けるのも、僕だけだから。

そう思っていた。



「愛羅ちゃん、ひとつ聞いてもいいかな」
「んー、なあに」



相変わらず、柔らかいトーンで話を聞いてくれる親友に、安心と不安を抱いた。



「僕のこと好き?」
「……美桜の次くらいに、好きだよ」
「そっか、ならいい」



正直に言えば、少し傷ついた。一番が僕では無いこと、負けた相手があんな奴だったこと、今までの時間は何だったのか、思うことは色々あった。

でも、それはただの欲でしかなく、誰をどう思うかなんて、全ては本人が決めること。僕の入る隙は存在しないのだ。

必死で明るく振舞った。傷ついたこと、一番でありたいと願ったことを、悟られないように。



「愛羅ちゃんって誰のことも好きじゃなさそうだから、ちょっとびっくりした」



何故だろうか、まっすぐに親友の顔が見れなかった。下手な嘘を見抜かれるのが怖いためだろうか、目を合わせると、涙を流してしまいそうな気がした。



「そうかな……私は伊咲のこと、普通に好きだよ」



突然真面目な面持ちで、親友が告げた。

言葉の意図が分からない。きっと深い意味は無い。友達として、友達の中でも二番目に、好き。

期待をしてしまいたくなかった。此処で素直に受け取ってしまえば、傷つくと思った。
何を返せば、この場の雰囲気を崩さずに済むか、そんなことを考える余裕すら、僕には無かった。



「そんなの、勘違いだよ。僕なんかを好きになるわけ無いよ」



親友に、というよりは、期待してしまいそうな自分自身に向けた言葉だった。
いつもみたいに、明るく冗談を言って欲しい。こんな感情を笑い飛ばして欲しい。
僕の願いは惜しくも叶わなかった。



「勘違いなんかじゃないよ……」



そう小さく告げる親友の表情は暗く曇っていた。









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