ターコイズ

ポケモンリーグへの挑戦を目指すトレーナー達は、エスパータイプ使いの双子のジムリーダー・フウとランを倒す為に、この街――トクサネシティにやって来る。

他にもこの街にはスペースシャトルの打ち上げなどで有名なトクサネ宇宙センターや、時間帯によって入手できるアイテムが変わる125番水道の浅瀬の洞穴を目当てにしたトレーナーや観光目的の人々も数多く訪れる。

そして、この街にはホウエン地方のチャンピオン・ダイゴの家があるという噂もあった。
チャンピオンであるが故に多忙な彼はいつも留守にしているため、実際に本人を目にした人はトクサネに住んでいる人以外には殆ど居ないという。

☆☆☆

ここはトクサネシティ北西部に位置するとある民家。
そこでは丁度一人の男が家を出ようとしていた。

「それじゃあ行ってくるよ」
「はい。気を付けてくださいね」
「勿論さ」

言うなりその男――ダイゴは女性の手を取ると、その手の甲にキスを落とす。
女性はくすっと笑みをこぼすと「何度されても恥ずかしいものですね」と頬をほんのりと赤く染めながら呟いた。

「僕はメリアのそういう初々しい所も好きだけどね」
「もうダイゴさんったら、揶揄わないでください」
「揶揄ってなどいないよ。本当の事だろう」

そう言ってメリアの柔らかな髪の毛を撫でる。
聞く人が聞けば歯が浮いてしまうような甘い会話と行動だが、それでも絵になっているのは、彼がデボンコーポレーションの御曹司であるからだろうか。

そんな甘い雰囲気の中、いつまでも見つめ合ったままの二人に痺れを切らした者がいた。
ふわふわの毛を揺らしながら二人の足元に来たのはメリアのパートナーであるブースターだ。
ブースターはメリアの隣で行儀良くおすわりをすると、ダイゴをキッと一瞥してから「グルルッ」とメリアに合図を送る。

「ふふ、そうよね。このままじゃダイゴさん出かけられないものね」
「っはは、また怒られてしまったな。すまないブースター」

ダイゴが屈んでブースターの機嫌を伺うも、ふいっと顔を逸らしてしまう。

「ブースター? ほら、わたしもいけなかったから、ダイゴさんのことばかり怒らないで」
「ブィ」
「許してくれるの?」

ブースターが肯定するようにメリアにすり寄ると、「ブースターは優しい子ね、ありがとう」とメリアはブースターの頭を撫でた。
微笑ましいやりとりに心が満たされるのを感じつつも、ダイゴは「さて」とメリアに向き直る。

「僕はそろそろ行くよ。もし何かあったらいつでも連絡するんだよ。何処にいても必ずすぐに駆けつけるから」
「ふふ、ありがとう。でもダイゴさんは少し心配しすぎじゃないかしら」
「万が一、ということも無いとは言えないさ。本当はずっと側に居られたらいいんだけど、今はそういう訳にもいかないからね……。だから、僕が留守の間メリアを頼むよ」

ダイゴがブースターに問いかけると、言われなくてもそのつもりだ、と言いたげなブースターは短く鳴いた。

「いってらっしゃい、ダイゴさん」
「ああ、行って来るよ。愛しい僕のメリア」

唇に軽くキスをしてから、名残惜しそうにしながらも今度こそダイゴは出て行った。
その背中を見送って鍵を閉めると、メリアは「さあ、わたしも頑張らなくちゃね」と呟いたのだった。



【ターコイズ:旅のお守り】

2020.4.20


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