ぬくもりをとじこめて

 大晦日。
 一年の締めくくりであるこの日は、いつもであれば張り切って請け負うギルドの仕事は敢えて入れずに、メンバーがそれぞれ大掃除や年越しの準備をするなどして過ごすことになっていた。
 そんな中、ユーリとヒナの二人は買い出しを頼まれて、はらはらと雪の降る街を並んで歩いていた。
 年越しの瞬間をカウントダウンで盛大に迎えるイベントのためだろうか、街中には注意して歩かなければすれ違う人と肩をぶつけてしまいそうなくらいに、たくさんの人で賑わっていた。

「なんだってこんな日に買い出しに行かなきゃなんねえんだよ」
「ふふ、仕方ないよユーリ。わたしもユーリもじゃんけんで負けちゃったんだもん」
「あー、それはそうなんだが」

 そう。なぜ街に繰り出しているのがこの二人なのかというと、恋人だから気を遣って選ばれた……というような甘い理由ではなく、公平を期して行われたじゃんけんで揃って負けてしまったからだった。
 正々堂々と勝負をした上で決まったこととはいえ、買い出しが面倒なのか、はたまたあまりの人混みに嫌気が差しているのか、ユーリは大きなため息をついた。

「今年も年末までずーっと依頼が入っててみんな忙しかったんだもん。ちょっと買い忘れちゃうことだってあるよ」
「言われてみりゃあ確かにそうか。ここ最近は結構バタバタしてたな。そんだけ凛々の明星の知名度も上がってきたっつーことだろ」
「えへへ、そういうことだね!」

 と、得意げに胸を張ってみせてから、ヒナは両手を口元に当てると、はぁ、と自らの手を暖めるようにして息を吹きかけた。
 その仕草に、ユーリは先程から感じていた違和感の正体にようやく気がついた。

「珍しいな。ヒナが手袋してねぇなんて」

 凛々の明星の中でもレイヴンと並ぶほど極度の寒がりなヒナは、こうした寒い日に外へ出かけるときにはしっかりと防寒対策をしているはずなのに、今日はいつもなら身につけている手袋をしていなかったのだ。

「うーんとね、出かける前に探したんだけど見つからなかったの。だから、買い物が終わったあとでゆっくり探すことにして、今日はそのまま出てきたんだよ」
「なるほどな」

 暖かそうなコートと、もこもことした暖かそうなマフラーを口元が埋まってしまうくらいにぐるぐる巻きにしているヒナは、それだけでもかなり防寒が出来ているようにも見える。が、コートの袖からさらけ出された両手は寒そうにすり合わされていることから、やはり手袋がないだけでも感じる寒さに差があるようだった。

「それでね、こうしてたらちょっとはあったかいかなって思って!」
「まあ確かに、何もしないよりかはマシか」
「ふふっ、そうでしょ?」

先程と同じように両手に息を吹きかけたヒナは、へにゃりと顔を綻ばせた。
 ゆったりとしたペースで歩きながら、時々はぁ、と吐息で自身の両手にぬくもりを与えようとするヒナの様子を、ユーリはしばらく横目で眺めていた。
 すると、ユーリはいいことを思いついた、と言いたげにニヤリと笑ってから、ずっとポケットに入れたままだった自分の右手をそっと抜く。

「んじゃ、こうすりゃもっとあったけぇってことだな」

 言うや否や、ユーリは隣を歩くヒナの左手をするりと取ると、さっきまで自分の右手を入れていたコートのポケットに自分の手ごと突っ込んだ。
 勢いのわりには優しく握ってきたユーリの手。男性にしては細身な体型とはいえ、しっかりと骨張っていて自分よりも少し大きなそれ。たまに頭を撫でてくれる暖かいユーリの手が、ヒナは密かに好きだったりするのだ。

「えぇ、っと、ユ、ユーリ!?」

 突然のユーリの行動に顔を真っ赤にして立ち止まったヒナは、ユーリの顔と、握られた手が入っているポケットとを交互に見ながら、繋がれていないほうの手をパタパタと振った。

「っはは、なんだよ。嫌なら今すぐオレの手振り払ってくれたっていいんだぜ?」

 意地悪そうに告げたユーリに対し、ヒナは「うぅ……」と少しだけ唸ったあと、既にそこそこ顔が隠れてしまっているのにも関わらず、更にマフラーに顔を埋めた。
 寒さに震えていたのがまるで嘘だったかのように、身体が火照ってきた気すらしてくる。それほど、今のヒナは恥ずかしさと嬉しさでいっぱいいっぱいになっており、最早パンク寸前だった。
 そして、様子を伺うようにちらりとユーリを見上げたヒナは、観念したように「……いやじゃない、よ」と小さく呟いた。
 可愛らしいヒナの反応を見て満足したのか、ユーリはニッと口角を上げると、「ならこのままさっさと買い物して帰ろうぜ」と言って再び足を踏み出す。
 引かれるようにして、ゆるく繋がれた手のぬくもりを感じながら、ヒナもユーリの隣に並んだのだった。


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