好きって言ったけど、嘘だから

だいぶ昔の診断メーカーネタ。ツイートに改行挟んだだけの手抜きです。
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わたしは聞いてしまった。ユーリが他の女の子に告白するところを。そりゃそうだよ、ユーリだってお年頃だし好きな女の子くらい出来るよね。
「はあ…」
あの子見た事ない子だったなあとかギルド抜けちゃうのかなあとか色々考えてたらさっきからため息ばかりついてる気がする。
なんだか胸がもやもやして気持ち悪い。今日は依頼もないしお部屋でゆっくりしてようかなと思っていたらドアをノックする音がして、はーいと声をかければ見慣れたピンク色が顔を出した。
「ヒナ、今からリタと買い出しに行くんですけど一緒に行きませんか?」
「買い出し…、うん。行く」
このままソファでぼーっとしてるのも勿体無い気がして、わたしは快諾してエステルの手を取る。すると顔をじーっと見つめられたかと思うとまた彼女はいつものように柔らかく微笑んで
「では、行きましょうか」
とわたしの手を引いた。
階段を降りれば出入り口でリタが待っていた。「あぁヒナも来るの」
「せっかくエステルが誘ってくれたからねえ。それに荷物持ちは多いほうがいいでしょ?」
「まあそれもそうね、じゃあ行きましょ」
いつも思ってたけどリタは歩くのが早い。わたしとエステルもリタに続いて宿屋を後にした。
暫くあちこちのお店をはしごしてグミや日用品などを買い足してそろそろ宿に戻ろうかという時、エステルがあれは、と前方を見つめて足を止めた。彼女にならってわたしとリタも視線を動かすと、視界に入ってきたのはユーリと、さっきの女の子。荷物を抱く腕に力が入る。見たくなかった。
「あの女の子、今朝もユーリと一緒にいたような…一体誰なんでしょう?」
「さあ?依頼人とかじゃないの?」
2人の会話が全く耳に入ってこない。まるで時間が止まったみたいだった。心配そうなエステルに顔を覗き込まれてはっとする。
「えと…わたしちょっと用事思い出しちゃった!先に戻ってるね!」
それだけ伝えてわたしはくるりと方向を変え走ってその場を離れた。どうしてこんなに胸が痛いんだろう。ユーリが女の子といる事なんて今までたくさんあったのに。どうして…。ずっとユーリと女の子のことを考えていたらいつの間にか広場に辿り着いて、端っこの空いているベンチに腰掛けた。
荷物を隣に置いてぼーっと目の前を歩く人達を眺めていると、突然視界が黒く覆われた。
「っ、なにっ!?」
密かに温もりを感じる目元に乗せられた手を退けようとするとだーれだ?と耳元で声がして。
「隠す気ないでしょレイヴン」
「ふふーんばれちゃった?というよりどったのヒナちゃんこんなとこで」
みんなで買い物に行ったんじゃないの?と言いながらレイヴンはわたしの正面にしゃがみ込む。その瞳はわたしの心を見透かしているような気がして思わず目を逸らしてしまう。
「なんだか元気ないのね?ヒナちゃん」
わかってる。わかってるんだよ。でもどうしてなのかがわからないの。
「青年と何かあった?」
問いかけるような心配するような優しい声色にわたしは首を横に振る。
「もしかして彼女のこと?」
そう言われてばっと顔を上げた。
「あらら、図星なのね…」
「レイヴン…なんで」
と言えば、レイヴンはわたしの頭にその大きな手をポンっと置いてくれた。
「青年のことなら心配いらないわよ」
「何か知ってるの?ユーリのこと…」
「ヒナちゃんよりはね」
と言ってレイヴンは頭に乗せていた手を滑らせそのままわたしの頬をするりと包み込む。
「だからそんな悲しそうな顔はもう終わり。ヒナちゃんは笑顔が一番似合「こんな所でいちゃつくとはいい度胸だな」
声のする方を見ればそこには不機嫌そうなユーリが立っていた。
「んで、おっさんはいつまでそうしてるつもりだ?」
「え!?ちょっと待ってよ青年!誤解よ誤解!おっさん、なーんも悪さしてないからね!?」
慌てて手を離して潔白を証明するレイヴンに続いてわたしも頷いた。
じとーっと見つめるユーリの視線に耐えかねたのかレイヴンは
「それより青年!ヒナちゃんが話があるんだと!というわけでおっさんは退場!さらば!」
と捲し立ててそのまま人混みへ姿を消した。
「レイヴン…」
途中までちょっといい人だと思ってたのに爆弾置いていなくなるなんてひどい…!
ユーリはレイヴンの消えた方を見ながら、忙しいおっさんだなと呟くとそのままわたしの隣に腰掛けた。
「で、話ってのは?」
ユーリからの視線を感じる。いっそ告白のことを聞いてしまおうか。いやでも突然すぎるかな…。
「て、天気いいね!ユーリ!」
「…まあ晴れちゃいるが最近ずっとこれだろ」
「そうだっけ、あはは…」
視線に耐えられずに少し顔をそらす。するとギシっとベンチが軋む音がして
「むっ!?」
包み込むように両サイドからほっぺたをつままれた。
「いひゃいいひゃい!」
涙目で訴えてもユーリは離してくれないどころかさっきより顔が近い。
「お前顔に出やすいの知ってるか」
真剣な顔のユーリは続ける。
「何か悩んでるって顔見りゃバレバレなんだよ。…オレで良ければ聞いてやるから」
それとも話しにくいことか?とほっぺたから手を離したユーリと視線がかち合う。
こうなればきっと嘘をついてもバレてしまう気がして、わたしは思いきって言葉を紡ぐ。
「今朝ユーリが知らない女の子に告白するところ…見ちゃったんだ」
「……なるほどな」
そう言ったユーリは1つ深いため息をつくと額に手を当てながら続けた。
「んで、その女は一体誰なのか気になるってとこか?」
ピンポイントで当てられてこくりと頷いた。
「説明するとややこしいんだが…あれ別にそんなんじゃなくてな。ただの依頼主なんだよ」
「…へ?」
想像していた答えとは違うものが返ってきて拍子抜けしたわたしは、なんとも間抜けな声を出してしまう。
「依頼主ってどういうこと?」
尋ねるとユーリは思い出したくなさそうに話してくれた。用心棒って依頼が来てたから行ってみたのにお店なんて見当たらなくて、現れた依頼主から話を聞けば一目惚れしたと言われたらしい。
「勿論オレにそんな気はねーし断ったら、思い出にしたいので形だけでも告白してくださいって言われてな…」
「そう、だったんだね」
「あれには参った。報酬は払いますとか言ってたがそれだけのために受け取れねえって断っちまったよ」
なんだ、そういうことだったのかと、わたしの胸のもやもやが晴れていくのを感じた。
「だから」
「ん?」
「そいつに好きって言ったの嘘だから、安心しろ」
ニヤリとしながらユーリにそう言われて、言葉の意味を理解した瞬間顔が熱くなる。
「安心しろってっ…!わたしはただユーリに恋人が出来たら凛々の明星からいなくなっちゃうのかなって心配で…!」
「つまりは寂しかったと」
「!!」
「なんだよ、図星だろ?」
「う、うるさいっ!」
「さっきエステル達が探してたからな」
と言うとユーリはわたしに手を差し出す。
「ほら、行くぞヒナ」
「…うん!」

(あ!ユーリとヒナが帰って来たよ!)
(ヒナ!心配したんですよ!?)
(ごめんねエステル。でももう大丈夫だから!)
(青年も隅に置けないわねえ)
(ぶっ飛ばすぞおっさん)


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