春、芽吹く

「見て! もうすぐ森の出口だよ」

先頭を歩くカロルが前方を指差しながら言うと、一行はその先に視線を向けた。確かに生い茂る木々の隙間から光が差し込んでいるのが分かる。薄暗い森の中をずっと進んでいたためか、その光がやけにまばゆく見えた。

「本当だ、あそこだけすっごく明るいねぇ」
「あぁ、やっとこの森から出られるんですね! 思っていたより時間が掛かってしまいましたし、先を急ぎましょう!」

早くフレンに追い付きたいからか、はたまたこの呪いの森から立ち去りたいからか、駆け出しそうになったエステルの腕をユーリが掴んで引き止めた。

「ちょっと待てって! 見た感じ足場悪そうだし、まだどっかに魔物がいるかもしれねぇ。慌てて走ってなんかあったら面倒だ」
「うん。ユーリの言う通りだよ。この辺りは木の根っことかツタがたくさん生えてるからよく気を付けないとすぐ足を取られちゃうんだ。走らない方が賢明だと思う」
「そう、ですよね。すみません、わたし。気持ちばかりが先走ってしまって」

ユーリとカロルに指摘されたエステルが申し訳なさそうに俯くと、そんなエステルの顔をヒナが覗き込んだ。

「ねえ、わたしも急ぎたくなるエステルの気持ちわかるよ。でも、もうちょっとで出口だからあとちょっとだけ頑張ろ?」
「ヒナ……! はい、わたし頑張ります!」

ヒナに励まされたエステルがやる気をアピールするように小さくガッツポーズをすると、その意気だね、とヒナは表情を緩めて頷いた。

「さて、もうちょい気ぃ引き締めて行きますか」
「ワフッ」
「じゃあみんな、ちゃんとボクに着いてきてよね」

と言ったカロルに続いて再び一行は森の出口を目指し歩き始めた。

魔物に遭遇する事なくクオイの森を脱出したユーリ達は、ひと息つく暇もなく目的地である花の街ハルルへと向かう。

そして、しばらく歩いてハルルの街はもう目の前というところで、見慣れた景色に気が緩んだのかヒナが弱々しい声を発しながらその場に座り込んでしまった。

「うわっどうしたのさヒナ!?」
「もしかして何処か怪我してるんです?」
「ううん、ちがうの! ただ、本当にあのクオイの森を通ってきたんだあと思ったら急に力が抜けちゃって……えへへ」

慌てた様子のエステルに対し、ヒナが控えめに答えると、同じように心配していたらしいユーリが少し呆れたように問いかける。

「ったくなんだよ、今更怖くなっちまったのか?」
「だ、だって、あの森にいたら呪われちゃうってずっと思ってたんだもん!」

安心からか少し涙目になっているヒナがユーリに言い返すと、ヒナの目線に合わせるようにして少し屈んだエステルが笑いかけた。

「ヒナのその気持ち、とっても良く分かります。わたしもどんな恐ろしい森なんだろうと不安でいっぱいでしたから」
「うぅ……ありがとうエステル。わたし、さっきエステルにあんなにかっこつけてたのに恥ずかしいな……」
「そんな事ないです。ヒナはとっても可愛らしいです!」

カロルの、それって褒めてるの?という問いに、勿論です! と答えたエステルは確かに好意で言っているようではあったが、何処かずれているような気もしなくもない。

「でもボク、みんなはあの森が怖くないのかと思ってたんだけど、そういうわけじゃなかったんだね」
「ま、オレは幽霊とか信じねえんだが、そこのお嬢さん方はそうもいかないらしい」
「ユーリが怖がらないのが不思議なんですよ!」
「そうだよ! だっておばけが出るとか呪われるとか言われてるんだよ!?」

必死になって如何にこの森が恐ろしかったかを訴えるヒナとエステルだったが、ユーリはそういった類のものに対して恐怖を抱かないらしく理解を得られそうになかった。ならば、とラピードに視線を向けるが、ふいっと顔を背けられてしまい二人して項垂れる。

「そういえばカロルもあの森に一人でいたってことはおばけとか怖くないの?」
「ま、まあね!」
「カロルは小さいのにしっかり者なんですね」
「あ、当たり前だよ! おばけを怖がってるようじゃ魔狩りの剣の風上にも置けないからね!」

見栄を張っているのはユーリとラピードの目には明らかだったが、彼女達はカロルの言葉を信じているらしい。
一つため息をついてから、ユーリはヒナに立てるか?と手を差し出す。しかし、ヒナの両手が荷物で塞がっていたため、出した手をそのまま腰に回して抱き寄せるようにして持ち上げた。

「よっと」
「ひゃっ……!?」

ユーリの行動に驚いたヒナは、声を裏返して小さく悲鳴をあげながらも、ユーリのおかげで何とか立ち上がることが出来た。

「え、えと、あ、ありがと……う」
「どういたしまして」

すぐ近くにあるユーリの顔と、密着しているという状況に思わず顔が赤くなり言葉を詰まらせてしまうヒナ。
そんなヒナの反応を見たエステルは、もしかして、と頭をよぎったとある予想に人知れず胸を膨らませながら微笑んだ。

「もう、びっくりさせないでよね。ヒナ、大丈夫なら先行くけど」
「だ、大丈夫だよ! お騒がせしちゃってごめんね」

そうして一行はまた歩き出す。
花の街ハルルを目指して。


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