林檎飴-novel- | ナノ

* 林 檎 飴 *
春夏秋冬-冬-
◆ 冬

赤や黄色、オレンジ色だった木々は、今は葉が全て落ちてしまい代わりに白い綿を付けている。冷たく青白く光る、雪だ。

「寒いと思ったら雪、降ったんですね」
「あぁ……」
「神田! 後で雪だるま作りましょう」
「このクソさみぃのにかよ……」
「いつも季節感ない格好しといていいますか!?」

窓から外を覗き、一面雪景色に変わった街並みを眺めている。はしゃぐ様に話すアレンに、全く寒そうではない格好した神田がため息を吐いて見せた。

「家ん中は暑いからな……」
「僕には丁度いいんですけど」

暖かい格好に着替えようと、アレンはクローゼットやチェストを開け服を取り出す。カットソーにセーター、スラックスに厚手の靴下とコート、マフラーに手袋。装備万端である。一方神田はシャツにカーディガン、スラックスにいつもの靴下とコートと手袋のみ。

「風邪、引きませんか?」
「引くわけねぇだろ」
「仕事に支障出さないでくださいね?」
「問題ねぇよ」

今まで仕事をせずにいた神田とアレン。別にダラダラしていたわけではないが全て黒の教団が金銭面・生活必需品の用意をしていたのだ。
しかし、先月の終わりから神田は短期間の職に就いている。アレンの為にだ。だが、彼は理由を理解しておらず神田はとりあえず誤魔化し、体力の使う仕事をしている。

「俺は家の周り雪掻くから、お前は遊んでろ」
「えぇ!? あ、ならかまくらって見てみたいです!」
「雪……足りるか……?」
「……雪だるま作ってまーす」

雪は降ったが、本で見たかまくら作りを出来るほどの量ではない。それを言うとアレンはキョロキョロ見渡し、彼に手をヒラヒラ振って雪だるまを作り始める。
それを見守り、神田はシャベルを使い雪を掻く。玄関周りと歩道への道を作り、家の周りも雪を掻く。数日もあれば溶けるだろう。

「……何個作ってんだよ」
「あ、神田、お疲れ様です! 可愛いでしょ?」
「……ったく、鼻真っ赤じゃねぇか」
「つい楽しくて。ほら、神田雪だるまそっくりでしょ?」
「どこがだ!」

えぇー、とアレンは不満そうに口を尖らせる。そんな彼を立たせ、神田は手を取り家の中へ入って行く。

「風邪引く、シャワー浴びろ。冷えてる」
「一緒に入ります?」
「誘ってんのか……?」
「今日は、特別に……。一緒に温まりましょう?」

ギューッと神田に抱き着くアレンは、首を傾げて上目遣いをする。普段なら一番ありえない行動に、神田は理性の糸が切れた気がする。
アレンの身体を抱き締めながらコートを脱がし、スルリと服を脱がして行く。そして、浴室までの道には衣服や下着が散らばっていた―――……。

***

「もしかして、寂しかったのか?」
「……そりゃ、寂しいですよ」
「あとちょっと、我慢してくれ……」
「浮気ですかコノヤロウ!」
「あぁ!? なんでそうなるんだよ」

二人で湯船に浸かり、逆上せそうなくらい温まると着替えてリビングにいた。神田の長い髪の毛を、フワフワのタオルでアレンが拭いている。
そんな中、ふと思った事を口にすればアレンはソファーを挟んで後ろから神田に抱き着く。久々に家で一人になり、何をすればいいのか戸惑った。だから、今日は一段と甘えたくなったのだ。

「……神田、大好き……」
「……知ってる」
「神田は?」
「……好きだ、バーカ」

クスクス笑い合いながらその日は過ぎて行く。
翌朝から再び神田は仕事へ向かう。エプロンを着け、片手にはお弁当を持ち彼を送り出す。まるで新婚夫婦のようだ。
それはある日まで続いた。一二月二五日。アレンが義父に拾われた日。その日は彼の誕生日となった日だ。しかし、アレンは自分の誕生日をすっかり忘れていたのだ。
一二月二五日。その日の神田は両手に預かった袋やケーキの箱を持っていた。仕事といいある場所へ向かっていたが汽車が遅れてしまい、予想より時間がかかっていた。きっとアレンはお腹を空かせているだろう。

「神田、お帰りなさい! すごい荷物ですね」
「あぁ、ただいま……今日は、祝いだからな」
「祝い……?」

預かった袋の中にはたくさんの料理が入っている。普通の胃袋になったアレンと神田では一日では食べ切れない量だ。しかし、どれもアレンの好物ばかりで、テーブルの中央には大きなホールケーキが置かれている。ホールケーキのプレートには『ハッピーバースデーアレン』と書かれている。

「……今日はクリスマスだ。つまり、お前の誕生日だ」
「え? ……あ……っ、知ってて、くれたんだ」
「悪い……嘘を吐いた。仕事は一昨日までだったんだが……ちょっと遠出していた」
「……教団ですね……。こんなに僕の好きな食べ物知ってるの、ジェリーさんだけです」

小さく身体を震わせる。本当は誕生日に気付いていた。クリスマスでもある。街並みがクリスマス一色になっていたのだから。しかし、神田は知らないだろう、そう思っていたがちゃんと知っていてくれた。
それが嬉しくアレンは思わず涙を流す。同時にやっと理解した。いきなり仕事を始めた理由を。嬉しくてたまらなくて神田に抱き着く。

「ありがとうございます、神田。すごく、嬉しい」
「泣くのが早い……」
「だって、わざわざ教団まで行って取ってきてくれたんでしょ? 嬉しいに決まってるじゃないですか」

ギューッと抱き着き、本当に嬉しそうな姿を見せる。そんな彼に優しく笑いながら、神田は涙を唇で拭う。擽ったく身を捩りクスクス笑うアレンの頭を撫でる。

「食べるぞ、折角作って貰ったんだからな」
「はい!」

たくさん並んだ料理を見て、涙を拭うと手を合わせパクパク食べて行く。まるで、教団にいた頃のように。その姿を見ながら、神田はポケットに入っているプレゼントは後にしようと思い、ワインボトルを開けた。
それから残った料理は冷蔵庫に保管し、ケーキを切り分ける。たくさんイチゴを使ったケーキだ。
それも残った分は冷蔵庫に片付け、二人は並んでワインを飲む。キスをしたり手を絡めたり、とても幸せな時間だ。

「おい……」
「なんですか……?」
「……今更、かも知れないが……」

そして、酔いも回り気持ち的に幸せで溢れた頃、神田はポケットから小箱を取り出す。その小箱を開けるとシンプルな二つのリングが入っている。

「え……これ、は?」
「……あまり付ける奴は少ないが……俺の証だ」
「っ……これ、ちゃんと意味わかってるんですか?」

そのリングを一つ取ると、神田はアレンの左手の薬指にそれを填める。まさか彼からこんなサプライズが待っているなんて思わず、アレンは再びポロポロと大粒の涙を流す。

「当たり前だ。ずっと、俺といろ……死んでも、ずっと一緒に」
「っ……もう、幸せ過ぎて、死にそうですよバカッ!!」
「まだ死なれちゃ困る……」

アレンの身体を抱き寄せ、顔が見られないようにし、歯切れ悪く神田は想いを伝える。耳まで赤くなり照れているようだ。アレンも顔が真っ赤になっており彼の胸に顔を埋める。
そして、顔が赤いままどちらからともなく唇を重ね合わせる。ゆっくり唇が離れると、アレンはもう一つのリングを取り神田の薬指にも填める。
お互いの左手を重ねると、ランプの光によってキラリとシルバーのリングが光った。幸せの証が、輝く。
外では、まるで二人を祝福するように白く綿のような雪が舞い降りてくる。それは花のように優しく降る―――……。


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