かなわない @
絵に描いたようなへっぴり腰だった。
「えいやっ!」
かけ声だけは一丁前に、なまえは思いきりフルスイングする。が。また空振りだ。
なまえが、一度自分もバッティングをしてみたいと言うので、俺たちは今日バッティングセンターに来ていた。
こりゃ、芸術的なヘタさだ。授業でしか野球をしたことのない女がバットを振ると、このザマだという典型を見ているみたいだった。しかも一番遅い球速で、だ。
「なっ?! 機械のくせにスライダーなんて!」
「バカヤロー! ストレートしか来てねぇよ!」
「おいしょー!」
「沢村か!!」
そういえば沢村は元気にやってるんだろうか。今度久々に顔でも出してみるか。
そんなことを思いながら、なまえのフォームをチェックする。あんなフォームじゃ、打てるものも打てやしない。球に対する恐怖だろう。極端な及び腰になって尻が出ている。尻が......。
俺は首を振って不埒な雑念を振り払った。
「もっとしっかり立って脇しめろ」
「うん!」
「球よく見て振り抜け!」
「了解!」
なまえが俺のアドバイス通りに立ちバットを振る。そこから、三球目にしてかろうじて先っぽだけだが当てたようだった。だが、弱いゴロがてんてんと転がっていっただけだ。どうやらそれが最後の球だったらしい。
しかし、それでもなまえはうれしそうに興奮ぎみで俺の方を振り返った。
「やった! 当たったよ純!」
なまえが頬を上気させ、満面の笑顔をたたえて俺を見るので、一瞬、胸がきゅっと苦しくなった。
ちょうどその時、パッパラー!とでかいファンファーレがあたりに鳴り響いた。まさか俺の胸が?!と、びっくりしてそこを押さえたが、なんてことはねぇ、奥の打席の奴がホームランの的を当てた音だった。