そしてだれも @


「いらっしゃい! みんな久しぶり!」
「まぁ上がれよ」

 野球部の冬合宿もひと段落ついたとある日曜日。ここ、スピッツハウスでは今日、懐かしい面々で鍋パーティーが開かれることになった。
 本日のゲストはおなじみの三人、結城くん、小湊くん、増子くん。

「へぇ、意外とキレイにしてるじゃん」
「うが」
「ほう、ここが二人の愛の巣か」

 納得したようにうなずく結城くんの大きな背中を、私は力いっぱいどついた。

「もう、同棲じゃないって! それに巣じゃなくて、どちらかっていうとハウスなんだから!」
「そ、そうか......」
「おいなまえ。少しは手加減してやれよ......」

 結城くんは困惑した面持ちで、スーパーの袋の中身を出しはじめた。
 今日の鍋パーティーは、おのおのが好きな具材を持ち寄ることになっている。

「野菜はいっぱい用意してるよ〜」
「俺は鱈を持ってきた。やはり、鍋に魚はかかせないからな」
「俺は豆腐を」

 テーブルの上には次々と食材が並べられ、なんとも食欲をそそる。

「あ? 亮介のはきんちゃくか?」
「うん。ちょっと作ってみたんだ」
「わぁ、すごい!」

 はい、と小湊くんが笑顔でタッパーを差し出したので、私は礼を言って受け取った。
 小湊くんが料理男子だったなんて驚きだ。純もぜひ見習ってほしい。

 小さな炬燵にどうにか五人収まり、鍋パーティーはわいわいにぎやかな雰囲気ではじまった。
 みんなと会うのは久しぶりなので、純もすごく楽しそうにしている。普段はあまり会わないけれど、いざ再会すると、昨日別れたみたいな気安さがあって、男同士の友情はつくづく不思議なものだと思う。

「増子はちょっと痩せたんじゃねーか?」
「ああ。かなり絞った」
「引退したあと、お餅みたいだったじゃん」

 懐かしい話に花を咲かせていると、ほどなくして、鍋がいい感じに煮えてきたようだ。

「お餅といえば、小湊くんが作ったきんちゃくって、中身はやっぱりお餅?」
「ああ、それね」

 小湊くんは意味深な笑みを浮かべて

「ロシアンルーレットきんちゃく」

 一瞬、その場がしんと静まり返った。ぐつぐつぐつと鍋からの音が大きくなったので、はっと我に返った純が火を弱めた。

「つーことは、この中に一つ“当たり”があるってことか?」
「そうだよ」
「むむむ、すると五分の一の確率か」

 小湊くんの性格をよく熟知している私たちは、この“ロシアンルーレットきんちゃく”にしばし戦慄していた。

「“当たり”の中身はなんだ?」

 食欲旺盛な増子くんでさえ、箸を止めて質問する始末だ。

「普通のお餅だよ」
「嘘つけ!!」
「嘘だな」
「うが」

 あたたかい鍋のまわりにいる私たちの空気は、今や冷えきったものに変わっていた。けれどもう具材を投入してしまったのだから仕方ない。覚悟を決めて食べるのみ。
 ここは公平に食べる順番をじゃんけんで決めようということになり、どこからともなく、じゃんけーん、と声があがる。

 生贄を決める儀式はしめやかに行われ、恐怖のロシアンルーレットは幕を開けた。

「さ、トップバッターは増子だよ」
「う、が......」
「けっ、トップバッターか。今は笑えねぇな......」
「そうだな」

 あの頃のみんなの打順でいくと、トップバッターは2番の小湊くんになるけれど、今日は5番の増子くんだ。ただ、トップバッターだろうとクリーンナップだろうと、今はそんなことまったく関係ない。
 少しだけ不安になり、炬燵の中でそっと純の手を握ると、ニカッという笑顔が返ってきた。大丈夫だ、そう語りかけるように。
 でも、これはみんなには内緒。


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