Trick or Treat!3

「こんばんは! トリックオアトリート!」

 ノックをしてドアを開けると、部屋には伊佐敷先輩と結城先輩が真剣な表情で向かい合っていた。二人の真ん中にあるのはなぜか将棋盤。結城先輩は引退した今も、時々こうやって寮の部屋を訪ねてくるらしい。

「あ?」
「む?」

 声に驚いた二人がいっせいにこちらを見る。私は靴を脱いで部屋に上がりこんだ。

「お邪魔しちゃってすいません……。今ちょっとハロウィンの真似事してるんです」
「ほぉ、ハロウィンか」
「すげー格好だな。みょうじ」
「これは……一応魔女です」
「……つか、スカート短くねぇか」

 伊佐敷先輩は私から視線を逸らし、顔を赤くして口にする。

「そうですか? 制服もこんなもんですよ」
「純、照れているのか?」
「あ? ちげーよ! 誰がこんな大根なんか」

 私は反射的に伊佐敷先輩のみぞおちにエルボーを食らわせた。先輩は、う、という声をもらして体をくの字に折り曲げる。

「お二人は将棋してたんですか?」
「ああ、俺が純に教えはじめたんだが、近頃めきめき腕を上げているぞ」
「へぇー」
「ま、勉強の息抜きにな」

 私の攻撃から復活した伊佐敷先輩が立ち上がる。

「まさか伊佐敷先輩、『ライオン』から影響受けたとか?」
「なっ?! ちげーよ!」

 『ライオン』は将棋を題材としたマンガで、私は以前伊佐敷先輩から借りたのだった。

「あれはいいな……」
「え?! 結城先輩も読んだんですか?!」
「ああ。あれは名作だ」

 将棋をする伊佐敷先輩も驚きだけれど、マンガを読む結城先輩も驚きだ。
 そんなやりとりのあと私はすぐに本題を思い出し、

「あ、なんでもいいんでお菓子ください」
「お菓子? ……あー」

 伊佐敷先輩がカーペットの上に視線を落とすと、そこにちょうど食べ終わったあとの煎餅の袋があった。

「わりーな。ちょうど今食い終わったとこだ」
「えー……。あの、なんかないですか? キャンディとかクッキーとか、なんでもいいんです」
「んなこと言われてもなぁ。しょっちゅうコンビニ行けるわけじゃねーし……あ」

 何かを閃いた伊佐敷先輩が、本棚をごそごそ漁りだした。そこから一冊引き抜いて私の方へ寄越す。
 私は本のタイトルをまじまじと見つめた。

「『キャンディ・キャンディ』……」
「読め」
「先輩はこんな古い作品も嗜まれるんですか。守備範囲どんだけですか」
「うっせ! 嫌ならいいぜ」
「いや、読みます! おもしろそうなんで読みたいです!」
「おーし」

 もはやハロウィンなのか何なのかわからなくなってきていたけれど、マンガは楽しみだったので私は喜んで受け取った。


部屋を出る



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