ごみ箱 | ナノ
ごみ箱
途中で投げた奴とか、よく分からないのとかが突っ込まれる
お兄ちゃんの「お」が重要なんだよ。「兄ちゃん」じゃ、ちょっと違う。だって「お」は丁寧語だろう?だから僕を慕って、尊敬しているって思いがその一文字に詰まってるみたいでさ。それがいいんだ。
ボーは「兄貴」とか呼ばれるタイプなんだ。ほら、乱暴だし素直じゃないでしょ?「うち?ダメダメ。今兄貴がいるからさ」とかそういう風に会話に登場するタイプなんだ。レスターは「アイツ」とか呼ばれちゃうタイプだよね。基本的に構いたがりだからさ、うざったいんだ。いいやつなんだけど。だから余計に舐められちゃうタイプっていうのかな。ね。そうじゃない?
僕?僕は「お兄ちゃん」って感じでしょ。物静かだし、優しいしさ。あの二人とは違うよね。ね?だからさ、僕のことは「お兄ちゃん」って呼んで欲しいんだ。「お」が重要だよ?「お」。うん、いや、「ヴィン」じゃなくてさ、それじゃ今まで通りでしょ。
思ってるよ。もちろん大事な妹だよ。なに、どうしたの。え、え?
き、きもちわるくないでしょ。家族なんだから、普通だよ。普通でしょ?僕この家で唯一の常識人だよ?ボーとかレスターと比べてみてよ。いや、比べるまでもないけどさ。ほら、戻っておいでって、なにもしないから。大丈夫だよ。何が心配なの?え?しないよそんなこと。しないしない。ほんとだって。ほんと、なにもしないから。戻っておいで。戻っておいでって。
ねえ、なにもしないから!

/ヴィンセント
もし妹いたら一番シスコン拗らせるのはきっとヴィンセント
(08月15日)
深夜の2:00に見覚えのない携帯番号からイタ電がかかってきて、非通知じゃないしなと取ってみたら
「こんばんわ、お嬢さん今どんなパンツはいてるの?」
変声機で変えられた機械音声は吐息混じりにいかがわしい質問をしてきた。
「ねえねえお嬢さん。す、好きなホラー映画は?」
やや興奮したような声音。お面野郎からだった。
私が電話を耳に押し当てたままこれはどうしたものかと無言でいると隣に居たフレディおじさんが何かを察したようで、「だれからだ?」と唇だけ動かして片眉を吊り上げる。
同じ様に口パクで「おめん」「パンツの色と好きな映画は?って」と、相手と内容を手短に伝えると、おじさんは「貸せ」と言って私から携帯を引ったくると部屋の外へ出ていってしまった。
「………」

10分後、なぜか満足気な顔で戻ってきたおじさんに手渡された携帯電話の向こうではゴーストフェイスが涙声で「エルム街の悪夢が…一番好きです…1作目のフレディさんが一番かっこいいです」としゃくりあげていた。
後に家を訪ねてきた本人から聞いた所、電話中携帯から舌が出てきて耳に入れられたり、いきなり自分の口からムカデが出てきたりと他にも色々と散々な目にあったらしい。
夢の中に電話を掛けるとこういうことになるのだから、お前も気を付けたほうがいいとよく分からないアドバイスを貰ったので、丸めた雑誌で殴りながら家から叩きだした。

/フレディとゴスフェ
(08月11日)
「この和風揚げ豚定食ひとつ」
虚ろな眼差しの彼女が指差したのは『当店のこだわり』というミニコラムの横にあるシェフの近影だった。
3日間完徹の彼女は疲れきっている。僕が慌てて訂正しようと顔を上げたのと同時に、無愛想なウエイトレスは「かしこまりましたぁ」ととりつく島もなくキッチンへ戻っていった。
早朝のファミレスは閑散としていて、活気の欠けている店内には僕たちと、さっきのウエイトレスと、あとはホームレスが窓際で寝ているだけ。カントリーミュージックのBGMはテープが古いのかノイズ混じりで所々音程を外しながら間延びしている。
ところでさっきの注文。いったい何が出てくるのだろう。写真から見切れるほどの豊満な巨体の厳つい仏頂面をしたアジア人シェフを見ながら僕は不安と期待の入り交じった心持ちでウエイトレスの行ったあとを眺める。
「話の続きなんだけどね」
俯いていた顔を上げて、困ったように弱々しく首をかしげる彼女は守ってあげたくなるようなはかなさというか、おさなさというか、かわいさというか、そういうものを全身に纏っている。
日付が変わってから数えて17杯目のブラックコーヒーをあおる彼女に、どうぞ、と右手で続きを促すと、
「うん。その、夢に出てくる帽子のおじさんのことなんだけど…」。

/モブ語りでフレディ書きたい
(08月10日)
8cmのヒールはアイスピックみたいに尖っていてとても歩けそうになんてない。ぴかぴか光るエナメルのパンプスはサイズこそぴったりだけれど大人の女の人が履くような赤色で私の20.5cmの足にはひどくアンバランスだった。それをガラスの靴でも履かせるみたいに恭しく私の足に宛てがって、なめらかに尖ったつま先を、ピンのようなかかとを、まだ汚れていない靴底を、それに守られた私の足を、スタンの手が一つも余すところのないようにゆっくりと撫でている。
「きれいだ」
俯くスタンが独り言のように静かに呟いたのを、私は聞き逃さなかったけれど、聞こえないふりをした。両手で顔の前に掲げた私の右脚にまるで宝物を眺めるようなぼんやりとした眼差しを向ける彼は、そこで顔を上げて骨ばった指を私に伸ばした。唇にそっと親指が触れて、どこか遠慮がちに口の中に指が差し入れられる。スタンの目は楕円に歪んで微笑んでいて、私はどうしてもその目を見つめていられない。逃げる舌を追いかけるように親指は静かに歯の内側へ伸びる。唾液に濡れるのも構わずに親指は優しげな動作で口をこじ開けた。

/スタン(ロストキッズ)
(08月09日)
アスファルトをダダダッってして踏み固めるやつを業務用マッサージ機だといって聞かない。どこからかっぱらってきたものか土とタールがこびりついたその重機を重たそうに引きずってきて、テレビの前であぐらをかく俺を見て「ちょっとそこに寝てみて」とフローリングに向かって顎をしゃくった。
肩が凝って背中が痛いと言ったのは「映画を見ながら寝てしまった君を起こすに起こせなくて一昼夜ずっと支えていた」という愛情深さのアピールであって、背骨を粉砕してくれと頼んでいるわけではない。
「お前それ工事現場で使うやつだろ」
「いいからいいから」
ちっともよくない。人の話を聞かないこいつがコンセントを挿してスイッチを入れると小規模な地震が起きて、案の定コントロールが効かなくなった重機があいつを引きずって暴れ牛のように部屋中を跳ね回り出した。すげえ。ロデオみたい。ソファーの上の安全地帯に避難してから、俺はそれを携帯のムービーに収める。

/ゴスフェ
(07月30日)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -