今日も海が綺麗だ。太陽の光が反射して、目が痛いくらいに。
まだ水はちょっと冷たい。
あーあ、せっかくのドレスが台無しだ。今日のために奮発したのになぁ。
ま、いっか。
あーあ、私何してるんだろう。尊敬すべき上司の結婚式をばっくれて、のんきに海で散歩だなんて。
まあ、あの人の部下だから自由な考えになってもしょうがないか。
さて、これからどうしようか。今日は結婚式の予定だったからまる1日休みだ。けど、別段予定もない。まあ、端から結婚式に行けばよかったのだけれど。
私にはそれがどうしても出来なかった。彼に結婚するのだと告げられた時は、ちゃんと心から喜び、幸せを願い、笑えていたはずなのに、おかしいな。
おかしいなあ。おかしいなあ。おかしく、ないか。
そりゃ、私は海軍に入った時から彼が好きだったのだから。そんな簡単に、諦められるわけがない。
当たり前だ。
「こんなとこでなーにしてんの?」
聞き慣れた声だ。私がずっと好きだった声だ。
何で?どうして?何で?どうして?何で。
「どうしてこんなところに居るんですか?」
「それは俺のセリフ」
似合わない、真っ白なそれをいつも通り着崩している彼だ。ああ、彼だ。
「上司の結婚式すっぽかしちゃだめでしょうが」
「すみません、気分が乗らなくて」
「まったく、名前ちゃんには敵わねえな」
今日、他人のものになった彼だと思うと、余計に欲しくなる。人のものは、より良く見えるものだから。
「それより、主役が何でこんなところに居るんですか?」
「気分が、乗らなくてな」
「奥さん、泣いちゃいますよ、きっと」
泣けばいいと思った。私は、案外普通の汚い1人の女なんだなあ。
「名前ちゃん」
「はい?」
「俺、結婚すんのやっぱやめるわ」
「はあ!?」
またこの人は、そんな重大なことをさらっと言ってのけやがる。正真正銘のばかだ。
「なあ、名前ちゃん」
「は、い」
「ごめんな、俺、名前ちゃんが好きだ」
(間違えないでくれたんですね。)→前のお話?
2012/12/22.